捻くれ者のお姫様と皮肉屋の騎士






「…そういうわけで、伯爵家のお嬢様と騎士は駆け落ちしたそうですよ。」

先日、城で行われた大規模な夜会。
令嬢達が色とりどりのドレスを翻して踊っている間に、騎士は主に言われたとおりの仕事を果たしていた。
その成果を、満足気に報告する騎士。
壁際や外で控える、令嬢付きの騎士同士での話で仕入れた、噂話。
夜着で寝台に横たわり、怠惰な様子で聞いた彼の主は、ふん、と鼻で笑った。

「陳腐なお話ね。ありきたりすぎて、笑えるわ。」

家に許してもらえず駆け落ちした、古典のような二人の話。
他の令嬢達なら喜んで聞くであろう話を容易く笑い飛ばす彼女に、騎士は落胆した様子を見せる。

「何ですかその反応。苦労して聞いてきた話を。」
「苦労して聞いてきた話?あんなのが?」
「令嬢達の中では最近の一番人気の話ですよ。」

憮然とした様子をみせる騎士に、その主である彼女は傲慢に笑った。

「お姫様と騎士の駆け落ち?ふん。そんなの、叶わぬ恋をしている自分達ってのに酔ってるだけよ。
」 「…可愛くないお姫様だ。」

嘆く騎士に、彼女は更に言い募った。

「あんな話より、存在するかどうかもわからない魔法使いの話のほうがよっぽど面白いわ。」
「…貴女は子供ですか。」

あきれ果てた様子の騎士に、彼女は寝台から半身を起こして言う。

「あら、そんなことないわよ。」

そして、力強く騎士の首を引き寄せた。

「それは貴方もよくご存知でしょ?」

間近に見える強気な瞳に、騎士は苦笑する。

「そうですね。でも…」

続く言葉を強引に口付けで掻き消すお姫様。


……これは、子供らしい矛盾ではないのですか?



騎士の言葉は、夜闇に溶けて、消えた。















c 睦月雨兎