「雨は空の涙なんてよく言うけどさ。」

そう言って、彼女は空を見上げた。
どんよりと濁った、気分が重くなるような曇り空。

冷たい風が、さぁっと吹く。

「風は、駄々っ子って感じだね。」

よくわからないな、と僕が首を傾げると、彼女は小さく笑った。

「だって、ほら。見てよ。」

そう言って指差すのは、ずらりと並んだ桜。

「風がね、散らしていくの。綺麗な桜が羨ましいのかな。」

そうかな。と、僕はまた首を傾げる

だって風は神様なんでしょう?
神様が他のものを羨むなんておかしいよ。

そんな気持ちをこめて彼女を見つめる。

「違うって言いたいの?」

少し不満げな彼女の髪を、また風が揺らす。

「いや、やっぱり駄々っ子だな。」

頑固な彼女は、僕の意見も無視して言った。

「私が駄々っ子だ、なんて言ったから拗ねちゃったんだよ。」

せっかくセットした髪がぐちゃぐちゃ、なんて言いながら、彼女は髪を整える。
そうして、誰かが同意してくれるのを期待するように空を見上げた。

「あ」

彼女の頬を伝う水滴。

「雨だね。」

確かに、涙に見えるな。なんて考えていると、彼女が僕を引っ張った。

「ほら、駄々っ子が泣きながら暴れ始めちゃった。早く帰らないと巻き込まれちゃう。」

濡れるのは好きじゃない。

「泣き止んだら、また遊びにこよう。」

そう言って走り始める彼女の後について走りながら
僕達を襲う風に威嚇の意味をこめて



僕は、わん、と鳴いた。








c 睦月雨兎