風
「晴れたな!」
「…晴れたな。」
正反対のテンションで、同じ窓から空を見上げる俺達。
さっきまで雨が降っていた空は、晴れたとはいえ微妙な感じだ。
「降れ。そのままもう1回雨になれ。」
「無駄な足掻きはやめなよ、兄貴。女神は俺に微笑んだんだ。」
先日バイクの免許をとり、乗る機会を待ち望んでいた弟は鼻歌を歌いながら着替えだす。
「いや、まだ勝負はついてない。」
気の進まない親睦会まであと2時間。
場所は近所の公園であるため、雨が降れば中止は確実だ。
「諦めなって。」
そう言って、ドアを開けようとする弟。
「…雨上がりにバイクは危ないだろ。やめとけば?」
「兄貴、天気が気に入らないからって俺に絡まないでよ。」
ばれたか。
そう呟いて、俺も出かける準備をはじめる。
…心配してるのは、本当なんだけどな。
そう思ったことが口に出さず。
「風、ふいてるみたいだけど。」
「何か関係あんの?」
「危ないだろ。」
「俺は風と友達だから大丈夫なんだよ。」
俺の相手をするのが面倒になってきたのか、弟は投げやりに答える。
「じゃあな。」
これ以上何か言われる前に、と思っているのがバレバレな速さで出て行く弟。
「風と友達って…子供かよ。」
そう思いながらも、弟と友達らしい風と、ついでにいるかどうかわからない天の神様に祈っておく。
とりあえず事故にだけはなりませんように。
「あー、健気な兄だなぁ。」
その言葉に、窓ががたがたとゆれる。
残念ながら、風からのメッセージは俺にはわからなかった。
c 睦月雨兎