君になら言えること




どちらかと言えば、クラスで浮いているという部類に当てはまる私。
休み時間になって私の元の駆け寄ってくる子はほとんどいない。
いたとしても、何かしら用事があったりする子ばかり。
別に寂しいとか悲しいとか思わないし、むしろ一人でいることを好んでいた。
相手に無理に合わせて、興味の無いことを話すことが嫌いなのだ。

そんな私に、ある日突然話しかけてきた子がいた。
「ねぇ、何読んでるの?」
その時私は休み時間に本を読むことで時間を潰していた。
私は本のカバーを外し、表紙を見せつけた。
どうせ私が話に乗る気が無いとわかったら去っていくだろうと思っていた。
クラス替えをすると必ず気を遣って、話しかけてくる子がいるのだ。
鬱陶しいまでは言わないけれど、放っておいてくれとは思うときはあった。

「あ、私その人の本好きだよ。読み終わったら貸してくれない?」
その子は笑顔でそう言った。
「別にいいよ。」
それでも私は素っ気無く答える。
「じゃあ、読み終わったら貸してね。絶対だよ?」
そう言って彼女は元の友達の輪に帰って行った。
そのとき私は彼女に対して呆れていたと思う。



「はい。」
本を読み終えてすぐに、私は彼女に本を渡した。
最初は貸すことを忘れたふりして、貸さなければいいと思っていたのだが、
「読み終わった?」と毎日のように私に話しかけてきていたので貸さざるを得なかった。
「あ、サンキュー。」
本を受け取った彼女も笑顔だった。



次の日、朝から彼女は私のところに来た。貸した本を持って。
「すごく良かった。」
感動しました!とでも言うような顔をして本を差し出し、彼女は抽象的な感想を添えた。
「今日放課後暇?」
「暇だけど。」
「ちょっと喫茶店によって帰らない?この本について語りたいの。」
「…いいよ。」
「じゃあ、放課後!」
そう言って彼女は自分の席に戻った。
そして彼女は他の友達と話す。
気を遣って話しかけてくれているなら、別にいいのに。と思いながら、私はまた別の本を読み始めた。



「ねぇ、綾ちゃんは泣いたことある?」
喫茶店に着いていきなりそう聞かれたから私は驚いた。
「あるんじゃないかな。あんまり覚えてないけど。」
「じゃあ、物心ついてからはないんだ。あ、こんなこと聞いてびっくりしてる?」
「『あんまり笑わないよね。』とは言われたことあるけど、泣いたことある?って聞かれた事なかったから。」
私がそう言うと、彼女はまた笑った。

「私がよく聞かれるの。『泣いたことある?』って。
ほら、私ってさー、いつも笑ってるでしょ?辛いことないんじゃないかって。」
「でも、相沢さんの笑い方、自然じゃないよ。」
私がそう言うと彼女の顔が初めて笑顔でなくなった。
でも、それは一瞬の出来事で、彼女の顔はすぐにまた、笑顔になる。

「そうかもしれないね。だって私本心で笑えてるか自信ないもん。
綾ちゃんのいう通り、自分で自然じゃないと思う。」
「自然に笑わないのっておかしくない?
たまには、そういうときもあるけど、相沢さん、いつも自然じゃない気がする。」
「じゃあさ、逆に聞くけど、自然に笑う方法知ってる?綾ちゃん自然に笑うの?」
少し冷たい言い方。でも私は慣れている。

「知らない。でも、本当に楽しいとき、嬉しいとき、自然と笑顔になる。
脳が笑えっていうんだって。でも、自然じゃない笑い方はそれとは比べ物にならない笑顔。相沢さんはそれ。」
「綾ちゃん、私に本貸してくれたとき、笑ってたよ。自然に。満面ってわけじゃないけど。」
「え?」
学校では愛想笑いしか浮かべた事の無い私が自然に笑えていた。
それは自分では信じがたいことだった。
家族と話しているときの自分は上手く笑えている。
でも、クラスの子とはいつも合わなくて、友達の前での自然な笑い方なんて忘れていた。

「私はね、友達たくさん欲しいとか、嫌われたくないなとか思って、皆と仲良くしてるわけじゃないの。
確かに話が合わない子もいるかもしれないけど、きっと、どこかは合う部分があるんじゃないかって
いつもそれを探しながら話してるの。」
「相沢さんは私に何が言いたいの?」
素っ気無い言い方でも何でもない。私はただ知りたかった。
彼女のことを、友達とうまくやっていく方法を。
きっと彼女はそれを言う為に私に話しかけてくれた。
そして私はずっとそれを求めていた。

「綾ちゃんと友達になりたい。本当の。
私は綾ちゃんとなら、自分と合う部分がきっと多いと思ってたの。
貸してくれた本もそう。不器用なところもそう。
本当に直感だけど、綾ちゃんと本気で仲良くなりたい。それで、綾ちゃんからも皆と仲良くしようよ。
皆きっと綾ちゃんと仲良くなりたいんだって。」
「良くそんな恥ずかしいこと言うよ。」
そう言った私は大笑いしていた。
「ちょっと、笑わないでよ!」
そう言ってる麻美も笑っている。

「私ね、相手に合わせるの苦手だったんだ。」
今度は真剣に今までずっと心の底で悩んでいたことを伝えた。
「そんなの流しとけばいいんだよ。別に自然じゃなくてもいいの。笑っとけばいいんだよ。
それで本当に心から自然に笑えるときがそれよりたくさんあればいいの。」
「じゃあ、これから毎日鏡の前で笑顔の練習する!」
「何それ、青春?」

大笑いしたのはいつ以来だろうか。
今まで私はどれだけ人生を無駄にしてきたのだろうか。
本当の友達ができたのは今日が初めてだろうか。

麻美と話せて本当に良かった。
私の本当の友達は本当の友達の探し方を教えてくれた。



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文芸部提出作品。
ペンネームは柚子檸檬で投稿。
タイトルはひよこ屋。



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© 浅海檸檬