赤青りんご




これはある学校で一番馬鹿であろう演劇部の話。




「文化祭の劇、どうする?」
「はいはい!あたしは白雪姫が良いな!」
「はい、決定ー。」


もうすぐ文化祭。
だいたいの文化系クラブにとってはこの時期が一番忙しい。
演劇部でもそろそろ文化祭に向けて考えていかなければいけない時期だった。

文化祭について問い掛けたのは一年の未里、白雪姫が良いと言い切ったのは二年の綾奈、即答で怠そうに承諾したのは二年の大輔、何も言ってないが一応この場にいる三年の広樹。
演劇部はだいたいがこの四人で成り立っている。というのは、この人数の為に助っ人を呼ぶ場合が多いのだ。


「白雪姫って具体的にどんな話だったっけ?」

広樹はパソコンに背を向け、ようやく話し合いに参加する姿勢をとった。

「えーっと、魔女が出て来てカボチャの馬車に乗ってー。」
「それ、白雪姫じゃなくてシンデレラ!お前白雪姫分からなくて言ってたのか?」
「とりあえず姫役をやりたい。」
「最悪だな!」

綾奈が広樹に対して敬語でないのは、単に綾奈がそういう性格だからではなく、この演劇部に歳の差による上下関係がないからだ。
そうでないと良いモノが作れないと代々演劇部に伝わる伝統らしい。
誰が作ったのかもわからないけれど。


「じゃあ私は魔女が良い!」
と未里が言った。

「何で?」
「魔女っ子になりたい。」
「意味わかんねぇよ!」
「魔法で変身したい」
「だからシンデレラじゃねぇつーの!しかも変身するの魔女じゃないから!自分が変身してどうすんだよ!」
「ヒロイン乗っ取る。」
「腹、黒!」


この演劇部はいつもこんな風。


「まあとりあえず白雪姫は決定ですね。」

未里が確認するように言った。

「決定は良いけど、お前らちゃんと話わかってんのか?つか、さっきの状況じゃわかってないだろうけどな!ちなみに広樹はわかっるよな?」
「俺は役者じゃないからわかってなくても大丈夫だろ」
「いや、でも圧倒的に人数足りないから」
「俺はカメラ。舞台だとしても監督やるし。てことで、助っ人呼んで来い」
「はーい!行ってきま…」
「ちょっと待ったー!」

綾奈が早速行こうとしたところを大輔が慌てて止めた。

「役わかってねぇと意味ねぇだろ。まず白雪姫と王子。未里が言う魔女の継母と七人の小人。あとは鏡役。メインの白雪姫、王子、継母、鏡役は俺たちでするとして、後は七人の小人だ。」
「七人集めて来れば良いんだね?」
「まあそうだな。」
「じゃあ行こう未里!」
「うん!」

二人が助っ人を探しに行き、大輔は一息ついた。

「大輔。」
「はい。」
「数えてみたけど、まさか俺が演じる役って入ってないよな?」
「…入ってるよ」

大輔がそういうと広樹は呆れたようにため息をついた。

「鏡役くらいやってくれても良いじゃん」
「まあ顔出さないだけましか。いや、でもやっぱ綾奈に任せよう。声変えたら適当にできるだろ」

そう言って広樹は自分でうんうんと頷いた。


「何でそんなに役嫌いなんだ?」
「俺はいつでも外から作る側にいたいんだよ。」
「外から?」
「言い換えれば大輔たちには中から作品を作って欲しい。」
「…なんとなくわかった。でも一度で良いから広樹が引退するまでに俺らと一緒に作品を中から作って欲しい。」
「…それもそうか。」


「集めて来たよー!」

ドアを勢い良く開けて入って来たのは綾奈だった。

「何人?」

広樹が聞くと綾奈は嬉しそうに手の平を見せた。

「五人か。なかなか頑張ったな!」

広樹がそう言ったにも関わらず、中に入って来たのは期待外れの人物。

「柔道部の皆さんでーす!」
「柔道部!!??」

すかさずそう言ったのは大輔。

「逞しいでしょう?」

エッヘンと胸をはる綾奈に大輔はすかさず突っ込む。

「逞しいでしょう?じゃねぇよ!!」
「何で?舞台だったら大声出せる人が良いかなって。荷物運ぶのにも助かるし。」
「そういう問題じゃねぇよ!!」
「まあ一理あるな。」
「広樹はややこしいから黙ってろ。だいたい小人役だからな!!何でがっちり体型の奴等連れてくんだよ!」
「小人でもがっちりかもよ?」
「確かになー。」
「だから広樹は黙れ!」

そこに未里が帰って来た。

「連れて来たよー!!相撲部の二人!!」
「何で相撲部なんだよ!!」
「俺たち頑張るッス!!」
「ていうかお前らも小人やる気満々かよ!!」
「もちろんッス!!演技に自信はないッスけど…。」
「じゃあどこに自信があって来たんだよ!広樹、笑うな!」

大輔は必死に堪えながらも笑っている広樹に怒鳴った。

「今回はコメディーになりそうだな。」

笑いながら言う広樹に大樹はあきれて言った。

「今回どころか俺らの代はほとんどコメディーだったけどな。」

To be continue



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