なまえのはなし









あなたのなまえはなんですか?



きこえたのはそんなことばだった



しろいくうかんで



そういったのは



よくしったひと




「…夢か。」

変な夢を見た。
もうどんな内容か覚えてはいないけど、妙に白い印象だけが脳裏に浮かぶ。

「何、僕と一緒にいるのに夢みるぐらい本格的に寝てたわけ?」

不満そうに口を尖らせる幼馴染の顔。
見慣れた顔が、寝起きでぼんやりとした瞳の中でにじんだ。

「よくあることだろ…。」

一応そう言ってみるが、機嫌を損ねると面倒なので渋々体をおこす。
狭い俺の部屋。
数年前に家のテレビを買い換えたとき、俺に与えられた小さな古いテレビ。
箱の中で行われているコンサートはどうやら終盤なようで

「これ、最後まで見たことある?」
「……ない、っけ?」

そういえば、と呟く。
俺とはあまり趣味があわない彼の、お気に入りのアーティスト。
格好つけて愛や絶望を叫ぶ男達は、可愛い雰囲気の彼には似合わない。

「だって俺これ苦手なんだよな。」
「もっとチャラチャラしたのが好きなんでしょ。知ってるよ。」

俺が好きなのは、女の子受けが良さそうな甘ったるいアーティスト。

「女の子とカラオケなんか行かないくせに。一体いつ歌うんだか。」
「お前と行ったとき歌ってんだろ。」
「僕あれ聞いてるとき寝そう。」
「お前…自分は低すぎて歌えねぇくせに偉そうに言ってんじゃねぇよ。」

世間のイメージ通り声の高い彼は、お気に入りの曲を歌うのが難しい。
男としてものプライドか何なのか、絶対にカラオケの機械をいじろうとはしないが。

「あー…こいつら、なんて名前だっけ?」

覚えていない、わけではなく実は知らないその名前を問う。
すると、幼馴染は俺のことを横目で睨んだ。

「…僕の話、全く聞いてなかったでしょ。」
「いやいや聞いてたって。いきなり忘れただけ。」
「…名前。」
「は?」

その言葉に、俺はぽかんと口を開いた。

「nameだよ。通称、名前。」
「なんだそれ。」
「インパクトあるでしょ?」

確かに、と頷いてテレビを見る。
うるさくて退屈だと思っていた奴等が、ちらっと悪戯に笑った。

「すげぇセンスだな。」
「でしょ。」

満足そうに頷いた彼と、今度は一緒にテレビ画面に目をやる。



窮屈な箱の中で、やっぱり彼らは絶望を叫んでいた。














c 睦月雨兎