なまえのはなし3







「名前って、凄いよね。」

目の前のそいつがそんなことを言ったのは、突然のことだった。


誰もいない教室

少し開いた窓

揺れるカーテン

差し込む夕日


「は?」

意味がわからなくて聞き返す俺の声が、がらんとした教室に響く。

「昔話にもあるでしょ…名前がバレて退治されちゃう鬼、みたいな話。」
「あったっけ。」

記憶を掘り起こす俺を、そいつは無視した。

「名前って大事なんだよ。名前には魂が宿るんだから。」

ふわふわと、歌うように紡がれる言葉に、言い表せない不気味さを感じる。


そういえば





「お前の名前…なんだっけ。」





確かに知ってるはずなのに
思い出そうとしても頭は真っ白で

「ないんだよ。そんなもの、はじめからないんだ。」
「嘘だ。だって俺はお前の名前…」
「知ってる?本当に?」





自分の目にうつっていたはずの姿が、歪む。

わからなくなる。
なにも


唐突におこった眩暈をこらえて顔を上げると、そこには空白。











あなたのなまえはなんですか?



きこえたのはそんなことばだった



しろいくうかんで



そういったのは



だれ?



おれは



おれのなまえは





























































c 睦月雨兎