雪片
「雪、降らせてよ。」
「…へ?」
目の前にあるのは、呆気に取られた顔。
まあ、誕生日プレゼント何がいい?の返事にそう言われたら戸惑うだろうけど。
「なんてね。嘘。」
「…は?」
すぐ撤回した言葉に、再び向けられる間の抜けた声。
「だから嘘だって言ってんの。」
別になんとなく言っただけなんだから、そんな困った顔しないでよねー。
なんて、そう繋げた言葉は実は嘘だったりするけれど。
だいたい、横を歩いているこの男は、意気地なしだ。
いつも何か理由がないと手を繋ごうとはしない。
はぐれるから。怖いから。寒いから。
そんなこいつのだめに雪が降ってほしいなんて、健気だなぁ。
と、自分を褒めてみる。
「…あのさ。手、繋ごうか。」
「どうしたの、急に。」
ああ、勇気を出して言ったんだろうに、なんて素っ気無い返事。
こいつが手も握れないのは自分のこういう可愛くない言動のせいだな。
と、反省したのもつかの間。
「あ、ほら。雪降ってきたし。」
「…やっぱり言い訳が必要ですか。」
呆れて呟いた言葉は、聞こえなかったらしい。
とりあえず文句を言いつつ、手を差し出してみる。
すると、目の前の男は慌ててポケットに入れていた右手を繋いできた。
そのままぎこちなく歩く姿に、一年前の光景が蘇る。
「…去年の今頃さ、覚えてる?」
「え、何を?」
戸惑う相手のことは関係なく、話し続ける。
「誕生日に友達からマフラーもらったってちゃんと言ったのに、あんたもマフラーくれてさ。
かぶったって言って一人で落ち込んでんの。」
「あれは…ごめん。プレゼント考えるのに浮かれてて話聞いてなかった。」
「可哀想だからってあんたに貰ったほうのマフラー使ってさ…。
結局、友達に貰ったのまだ使ってないんだよ。」
「あ、あのときもこうやって歩いたっけ?」
「そうだよ。寒いからって言って。…手ぐらい普通に繋いでよね。」
「ごめん。」
自分が怒って、相手が謝って、会話が途絶える。いつものパターンだ。
少しは態度を控えようといつも反省するけれど、長くはもたない。
「…次からは、頑張る。だから許して?」
「仕方ないな。許してあげる。」
いつも呆れたように言うけれど、本当は自分に呆れてるんだよ。
何度反省しても素直になれない自分に、さ。
「だからその…今年もよろしく?」
「何、その疑問系。」
反射的にそう言って、開いている右手で頭を抱える。
素直に可愛く返事しようよ、自分。
そう言い聞かせて、にっこり笑ってみた。
「ま、今年も来年も、ずーっとこのマフラー使ってあげてもいいよ。」
あ、なんか違う。
そう思いはしたけれど、目の前の男が嬉しそうに笑ったから。
なんだか恥ずかしくなって、照れ隠しに繋いだ手を大きくふって歩いた。
…こんなのも、たまにはありでしょ?
c 睦月雨兎