第10話



聖茄本人から聖茄の正体を明らかにされたその日、千空たちは千空の屋敷で聖茄について話していた。

ローレンスはティーカップにストレートティーを注いでいた。

「よし、今回の司会もボクですよー。」
と、まなが元気よく立ち上がり言ったが、千空に座らせられた。

「まなは座っていてくれ。」

千空の一言にまなは静かに従った。

沈黙が続いた。

錬太と華恋は一言も喋らず、俯いていた。

「錬太、華恋。ごめん!」
千空は頭を下げて言った。千空が頭を下げて謝った理由は皆分かっていた。

「どうして教えてくれなかったの?」
そのままの姿勢で華恋が口を開いた。

「私たちが宝石を狙うとでも思ったの?」
華恋の声は震えていた。

千空が机を叩いた。
「華恋!それは違う、誤解だ!」
「じゃあ千空。」
今度は錬太が口を開いた。千空は困った表情のまま錬太に視線を向けた。

「僕達を傷つけないため?」

千空が静かに座り、小さく、
「そうだ…………。」
と呟くように言った。

錬太は机を叩いて、立ち上がり、顔を上げた。
目が真っ赤だった。

ローレンスが置いたティーカップの中身がこぼれそうになり、ローレンスはティーカップを静かに他のテーブルに移動させた。

「何が『傷つける』よ。」

そう言ったのは華恋だった。そして華恋も立ち上がった。
「昨日言ったじゃない…。『今日から仲間になります』って…。」

そう言った華恋から涙がポタポタと落ちた。

「千空君はそのとき否定できなかったの?」
「違う!」
千空が机を叩き、立ち上がった。

「だったら何!?仲間に隠し事したっていうの!?」
華恋は怒鳴った。

千空は何も言わなかった。言えなかったのだ。

まなも静かに座り黙っていた。

ローレンスはただ紅茶を見つめていた。

「前に、親友だから7月7日の本当のこと話したのに。千空は話せなかったの?」

錬太が話し始めた。

「僕達が…宝石がなくなったら死んじゃうから…?そんな同情なんて…いらないよ!」
錬太は屋敷を出て行った。
乱暴に扉閉める音が聞こえた。

千空は脱力したように座った。

そして華恋は錬太のあとを追うように扉のところまで行き、振り返った。そして呟くように言った。

「抜けるわ。」

その言葉は千空やまな、ローレンスに向かってではなく、華恋自身に宣言しているようであった。

そして華恋は屋敷から出て行った。

ローレンスは密かに、ねずみ型の遣いにあとを追わせた。

そしてまなに尋ねた。
「何故、仲立ちをしなかったのですか。まなならすると思っていたのですが…。」
「千空が座れと言ったです。ボクの出番は無いと思ったです…。」
まなもローレンスも、もちろん千空もこの状況を何とかしたいと思った。



錬太と華恋は同じことを考えていた。だから二人の行く場所も同じだった。

華恋が高等部の屋上に着いたとき、錬太は既にいた。もう時間は9時を過ぎていた。

屋上は真っ暗だったが、華恋は錬太の気配をよんだ。そして二人は夜景を眺めた。

「こんなに平和な世の中が宝石1つで戦場になるなんて…。」

話し始めたのは華恋だった。お互い視線は合わせなかった。

真っ暗だからお互いの顔は見えないのに、泣き顔を見られるようで嫌だったからだ。

「想像したくないよね。千空だってそうだろうね。」
「千空君だけじゃなくて、みんなよ。みんな平和がいいって思ってる。」
「華恋ちゃん。それは違うよ。珠州耶麻先生はどっちでもいいって。」
「でも、わたしが先生だったら、そうは思わない。だって実際強い千空君が平和を願ってるんだから。たとえ傍観者でも犠牲者を見るのは嫌だと思う。」
「じゃあ、千空は…千空はどうして平和を願ってるんだろ…。」

しばらく沈黙が続いた。錬太の疑問の答えは2人共わかっていた。

”大切な仲間がいるから”

「答えは分かっているよね。」

華恋のその言葉で、真っ暗で見えないはずなのにお互いを見て、微笑み合った。

「ところで錬太君。さっきから小さなものに見られている気がするの。」
「何かいるの?」
錬太は慌てて身構えた。

「可愛いものよ。だって邪気を感じないもの。」
錬太は安心し、また夜景に体を向けた。

「錬太君!」

華恋は慌てた口調で言った。錬太は大変なことが起ころうとしているのが分かった。

「どうしたの!?」
「何か階段を上がってくる。こっちに来るわっ!」

二人は同時に身構えた。
それと同時にねずみはローレンスの元へ向かった。

屋上のドアが音をたてながら開いた。

真っ暗な屋上。何がきたのかさえ分からない。

華恋は神経を集中させた。

「邪気を感じるのが3対と……人間…?」

華恋がそう呟いた後何かが襲い掛かってくるのがわかった。
錬太がとっさに錬金術でかわした。
「アルキミーア・ピエートラ」
「今のは?」
「アルミで防いだだけ。すぐに壊れる。」

そのとき、闇の中から声が聞こえた。

「ふーん。錬金術かぁ。でもまだそれ、不完全だね。」
女の人の声だった。

「安心しな、あたしはあんたたち側だから、あんたたちを殺さないよ。」

そこにいたのは女の人一人と、三体の魔獣だった。

今はもう三体の魔獣は襲い掛かってくる様子はなかった。

「あの…どなたですか?」
錬太が尋ねた。

「あたしは神咲明里紗。こんなところじゃなんだから家に来な。2人に話すことがある。」

二人は半信半疑で明里紗について行った。



「主人。二人のところへ魔獣3体と人間が現れました。」
「魔獣と人間…?」
「はい。詳しくは分かりませんが…。」

千空は乗り気ではなかったが、二人が無事であることを願い、学校へと向かった。



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