第12話



「おはよう!錬太君。」

登校中の錬太の後ろから声がした。
錬太が振り向くと、そこには駆け足でこちらに向かってくる華恋の姿があった。

「おはよう。」

錬太は立ち止まって、挨拶をした。
華恋が錬太のそばまで来ると、立ち止まった。
そして二人で学校に向かって歩き出す。

そこで華恋が小さな欠伸をした。

「錬太君、昨日っていうか今日の朝。寝た?」

昨日は千空と喧嘩し、学校の屋上に行ったときに明里紗出会い、家まで導かれ、そこからいろいろとあったのだ。
当然夜遅くまでのことであり、睡眠時間は短かったのだ。

「うーん…3時間ぐらい寝た。華恋ちゃんは?」
「同じくらい、かな。」
「そっかぁ…。眠たいよね。」
「千空はどうだろ?明里紗さんの引越しとかで忙しそうだし。」
「錬太君。本当に千空君が好きなんだね。」
「えっ……。」

錬太の顔が少し赤くなった。
何故か華恋に言われると恥ずかしくなった。

「わたしも好きだなぁ、千空君。」

錬太の顔は驚きの顔に変わった。
その”好き”というのはどういう意味を含んでいるのか。
錬太の千空に対する”好き”はもちろん友情だ。
しかし、華恋の場合は恋愛感情で”好き”と言っているように思えた。

「変だよね。ついさっきまで怒ってたのに、なんか…。」

そう言って髪を耳にかけた華恋の顔は少し赤かった。
それを見て錬太は確信した。
華恋は千空のことを恋愛感情として”好き”なのだ。

それから二人はとりとめない話をした。

いつの間にか下駄箱のところまで来ていた。
そして千空の靴箱を見た途端、二人はお互い顔を見合せて、こう言った。

「早くない…?」

千空は昨日錬太と華恋より忙しかったはずだ。
睡眠時間が自分たちより遅いのは確実。
にもかかわらず、千空はいつもどおり登校していたのだ。

教室まで行くと

「ちょっと待ってて。」

と華恋は言い、急いでBクラスに自分の荷物を置きに行き、Aクラスの前で待っていた錬太のもとに来た。

「なんか千空君が気になって…。」

華恋は恥ずかしそうに言った。

Aクラスの教室に入ると千空は机に伏せていた。
一目で疲れていることと眠たげなのがわかった。

「おはよう…千空。」

錬太はそっと、挨拶を交わした。
それと同時に千空がバッと顔をあげた。

「おはよう。錬太、華恋。」

声は意外とシャキリとしていたが、顔は眠そうだった。
だいぶ疲れているようだ。
いつも完璧な千空にもこればかりは忙しく、疲れてしまったのだろう。

「千空君、寝た?」

華恋が心配そうに問うた。
錬太に尋ねたときとはまた違った印象だった。

「寝てない。」

千空はきっぱりと言った。

「お疲れ様…。」

華恋は頭の中でいろんな言葉を探したが、そういうほか無かった。



1限目。

錬太は全然授業に集中せずにいた。
寝不足だったからではない。
華恋のことが気になって仕方がなかったからだ。
錬太はいつの間にか、華恋のことが好きになっていたのだ。
そのことに、今日気づいた。

華恋は千空が好き。
そのことも、今日分かった。
友情ではなく恋愛として、華恋は千空がすきなのだ。
華恋ははっきりとは言わなかったけれど、錬太には分かった。

けど、千空は明里紗さんのことが好きなのだと思う。
小学校高学年の頃からだと思う。千空が嬉しそうに明里紗さんのことを話すようになったのは。
明里紗のことを”明里姉”から”明里紗”と呼び捨てにし始めたのもその頃だったと思う。

(じゃあ…明里紗さんは千空のことをどう思っているのだろう…?)

明里紗にそのことを尋ねても千空や華恋の気持ちは変わらない。
そうわかってはいるのに、どうしても明里紗にそのことを尋ねたかった。

錬太は心の中に悪い自分がいることが嫌で仕方なかった。



千空は自分の眠気を覚ますためひたすらメモをとっていた。先生の言うことを一言ももらさず。
そうしないと寝てしまいそうなのだ。

授業中寝ることだけは避けたい。

フルヴリア家としては、トレゾールを守ることが第一。
つまり、帰ってからはなるべく勉強はしたくないのだ。

だからこそ授業にできるだけ集中したい。
それが千空のこだわりでもあった。

授業が終わる頃にはノートが真っ黒に見える程のメモになっていた。

ただ、授業中明里紗のことも少し頭にあった。
昨日はあんな態度をとってしまったが、明里紗が近くにきて本当は嬉しかった。



華恋はそのとき、昼休みをとても楽しみにしていた。
千空と屋上でお昼ご飯を食べるからだ。

錬太、まなもいるけど、錬太には今朝さりげなく伝えたし、協力してくれるだろう。

クッキーも作ってきた。
錬太には3時間寝たと言ったが、実は一睡もしていない。
クッキーを作っていたから、寝る時間がなかったのだ。

千空を好きになった理由はまず第一に”かっこいい”からだ。
謝る姿も眠そうな姿も全て愛しいと思うぐらいに。

そして今、華恋は千空が背負っている荷を少しでも軽くしたいと思っている。

(でも、何で錬太君に嘘ついて寝たって言っちゃったんだろう…?心配させたくなかったから…?)

華恋の心の中には何かがひっかかっていた。



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© 浅海檸檬