第14話




最初に屋上に来ていたのは明里紗だった。
次に来た華恋は張り切って屋上へと向かったが、屋上へ向かう途中に屋上にはまだ明里紗1人しかいないことがわかり、落胆した。

渋々屋上のドアを開けると、明里紗がにこやかに手を振った。

(明里紗さんにはこれからつくづく邪魔されそうな気がする…。)

華恋は明里紗に笑顔一つ見せず、明里紗の隣に座った。

華恋の次に来たのは千空と錬太だった。

「お待たせ。」
そう言ったのは錬太だった。

「先に食っといてくれたら良かったのに。」
と言ったのは千空だ。

「先に食べるわけないだろ?それが礼儀ってもんなんだよ。」
「こう言うのだって礼儀だ。」

そう千空が言い、華恋意外が笑い合う。

「華恋、元気が無いな。どうかしたか?」
「ううん。何でもない。」

千空に聞かれ、華恋は首を振った。
そして安心させようと無理に笑顔を作った。

そのとき、屋上のドアの向こうから声が聞こえた。
「ついて来るなです!」

まなの声だった。

4人がドアの前まで行くと、まなが急にドアを開け、素早くドアを閉め、自分の体重をドアにかけるようにドアに凭れた。
まなの後ろからはドアを激しく叩く音が聞こえる。

「どうしたんだ?」
千空が声をかけた。

「栢山悠夜って人が追いかけてくるです。」
「何かしたのかい?」
と尋ねる明里紗にまなは必死で訴えた。

「何もしてないです!栢山さんがオカルト大好きで…!」
「オカルト?」

千空が顔をしかめて言った。

「あ…。」
(怒られる…。)

まなはそう思い、黙り込み、俯いてしまった。
千空はオカルトという言葉が嫌いなのだ。

「はあ…。」

千空の口から出たのは怒りの言葉でもなく、溜め息だった。

「まな、栢山君を通すんだ。」
「え…でも…。」
「隠すと余計にややこしくなる。」

まなは静かにドアから離れた。
それと同時に、小学生ぐらいの男の子がドアと一緒に動くように屋上に姿を現した。
もう少しで、悠夜は転ぶところだった。

悠夜は立ち直し、姿勢を整えて言った。

「魔法現象研究部に協力してくれ!」

この一言で皆驚いた。
一番驚いたのは華恋だった。

親への外泊の理由として使った部活の名前がそのまま悠夜の口から発せられたからだ。
そして華恋は、恐る恐る聞いてみた。

「顧問は…?」
「珠州耶麻先生だけど。」

この一言で咄嗟に行動に出ようとしたのは千空だった。
千空が一歩足を踏み出したところで、咄嗟に明里紗が千空の腕を掴み、千空の行動を全てお見通しのように言った。

「待ちな。今行っても騒ぎを起こすだけだ。ここに何も知らない悠夜君がいることを忘れるな。」

明里紗の言葉で千空は聖茄のところへ行こうとするのを止め、一歩踏み出した右足を左足に揃え戻した。

千空が考えていたのは、今日の数学の授業のこと。
聖茄と通信魔法で話していたときのことだ。
聖茄は言っていた。

―――私はいつでも見ているわ。

「放課後、またここに来てくれ。だから今は帰ってくれ。」

とりあえず、千空は悠夜なしで皆に話をしたかった。

「わかった。じゃあ、放課後必ずここで。あ、オレの名前は栢山悠夜。」

そう悠夜が言い、帰ろうとくるっと後ろを向いたとき、錬太が呼び止めた。

「この行動は悠夜君がしたいと思ってしたこと?」

悠夜は錬太の質問に数秒間考え込んでから答えた。

「うん。」

悠夜の閉めたドアの音が響いた。

最初に口を開いたのは明里紗だった。

「食べようか、千空、話してくれるんだろ?」



千空は今日までのことを話し終えた。もちろん、今日の聖茄のこと。

「そっかあ。あの先生か。」

明里紗の頭の中で聖茄が思い出される。

「傍観者って何ですか。」

まなが問いかけた質問に華恋が答えた。

「そばで眺める人のことよ。」

今日の座り方は円の形で、千空から順に、明里紗、華恋、まな、そして錬太である。

今度は錬太が明里紗に問いかける。

「あの犬は何なんですか。」
「ああ。サン、ムーン、アースのことかい?」
「そうです。」
「あいつらは、あたしの遣いみたいな魔獣さ。」

返事に困って黙り込んだ錬太に明里紗が続けて話した。

「そのうち分かるさ。」

次に華恋が千空に問うた。
「どうして昨日、明里紗さんの居場所がわかったの?」

だが、答えたのは明里紗だった。

「あれは、あたしが前に千空に手紙を送ったのさ。」

千空に答えて欲しかった華恋は明里紗に何もリアクションを示さなかった。
だが、明里紗もそれほど気にしなかった。
それがまた華恋の神経にさわったので、華恋は無視したことを示すために錬太に新たに疑問をぶつけた。

「昨日錬太君錬金術、普通に使えてたよね。何で?」

急に話を華恋にふられた錬太は一瞬驚いたが、冷静に答えた。

「あれは錬金術だけど本当に初級。ただし普通の人にはできない。昨日のはアルミ。上の級にいくほどアルミから金まで使えるようになるんだ。イオン化傾向でイオンになりにくい金属ほど強いんだ。それにアルミは弱いから、ちょっと風が吹いただけで崩れる。だから華恋ちゃんを仲間にしようとしたときは錬金術をすぐにみせられなかったんだ。」
「そうなんだ。」

華恋はそう言っただけだった。
そして、明里紗に対する怒りが増した。自分では明里紗は悪くないと分かっていながら、抑えることのできない感情だった。

ちょうどそのときチャイムが鳴った。

「予鈴だよ。」

明里紗がそう言うと皆屋上へと向かった。

明里紗と千空達が別れるとき、明里紗が華恋に声をかけた。
「華恋ちゃん、5・6限目移動教室かい?」
「違います。」
「じゃあ、5限目終わったら裏庭に来て。」

突然の呼び出しに華恋は驚いたが、「はい。」と返事した。



5限目、華恋は明里紗に呼び出された理由を考えていた。

(やっぱり、ちょっと態度冷たかったかな…。)

そのことを迫られると素直に謝ろうと華恋は考えた。



5限目が終わるとすぐに華恋は裏庭に向かった。
明里紗はすでに来ていた。

「待ちました?」
「いや、さっき来たところさ。」
「どうしたんですか。」
「ん?華恋ちゃん、千空が好きなのかなって思ってさ。」
「えっ…。」

明里紗の予想外の言葉に華恋は驚いた。

「図星かい?」

黙っている華恋に明里紗が続けて話す。

「華恋ちゃん、多分千空は華恋のことを仲間としか思ってないよ。」
「分かってます。」
「いいや、分かってない。千空のことは分かっていても、華恋ちゃん自身のことは分かっていないだろう?」
「それは…。」
華恋は分かっていた。分かっていたけど、確信が持てなかった。

実は千空と錬太との間で揺れていた。

かっこいい。自立している。そんな千空にひかれたのは事実だった。
だが、その一方で優しい錬太にひかれていたのも事実だ。

ただ、千空に対する感情は憧れだったのかもしれない。

「明里紗さん、さっきは冷たい態度をとってしまってごめんなさい。」
「いや、そのことはいいさ。」
「わたし、このこともう一度ゆっくり考えてみます。」
「うん。じゃあまた後で。」
「ありがとうございました。」
華恋は一礼した。

「どういたしまして。」

そして2人は教室に戻った。

(わたし、千空君より錬太君が好きかもしれない。)



悠夜は放課後を凄く楽しみにしていた。

実は昨日悠夜はまな達を目撃していたのだ。

マントを身につけた少年。
ドレスを着た外国人と思われる女性。
そして不思議なものを持っていたまな。

(明らかにおかしい。)

悠夜はそのときそう思ったのだ。

千空達は不思議な力を持っている。
悠夜はそれを確信していた。

だから放課後千空達に会って話をすることが楽しみだったのだ。

オカルト好きな悠夜を満足させられるような魔法を使う彼らだったからこそ。



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© 浅海檸檬