第18話
「おい!早く起きろよ!」
まなの部屋のドアが悠夜によって乱暴に叩かれた。
悠夜の声とドアを叩く音は1階に聞こえている。
それに最初に気付き、行動に出たのは千空だった。
そしてドアの前の悠夜の隣で言った。
「まな、起きろ。」
千空のその言葉でまなは渋々ドアを開けた。
「何で栢山が家にいるですか!」
千空より早く、悠夜が咄嗟に言った。
「部活に決まってるだろ!」
まなは呆気にとられていた。
おそらく、いろんなことが頭の中で考えられているのだろう。
「何で夏休み初日から部活なのですか!だいたい何で…。」
まながブツブツ文句を言いながらクロワッサンを食べている。
悠夜はそれに構わず屋敷内を色々探検するように歩き回っている。
ちょうどそのとき錬太と華恋がやって来た。
ドアが開く音がしたのでローレンスが迎えに行った。
2人には部活のため来るようにと電話が来たのだった。
「おはようございます。お荷物お持ちいたします。」
そう言ってローレンスは手を差し伸べたが、2人とも断った。
「自分の荷物ぐらい自分で持つよ。」
「そうよ。ローレンスさん。朝食の途中でしょう?早く食べておいたほうがいいわよ。嵐のような子がやって来ているんだから。」
そう言って華恋はくすくす笑った。
嵐ような子とは、もちろん悠夜のことだ。
冗談はあまり通じないローレンスだが、意味だけは分かっていた。
「では失礼させていただきます。」
そう言ってローレンスはダイニングの方へスタスタと歩いていった。
その後を追うように華恋と錬太がゆっくり並んで歩く。
「錬太君は悠夜君のこと、どう思う?」
「まあ悪気はないんだろうけど…特にまなちゃんにとっては迷惑なんじゃないかな?」
「そのうち迷惑じゃなくなるわよ。」
華恋は少し微笑んだ。
「え?何で?」
「2つ答えはあるけど。1つは悠夜君がごく僅かだけど魔力を持っていること。」
錬太は驚いた様子を見せた。
「え?ほんとに?」
華恋は頷いた。
「うん。一昨日気づいたの。近くにいないと分からないくらいだった。」
「それ、千空には?」
華恋は首を横に振った。
「まだ言ってない。」
「何で?」
「今言っても混乱させるかもしれないし、それに…。」
「それに…?」
「錬太君に最初に言いたかったの。」
「え…。」
”それってどういう意味?”と錬太が聞こうとしたとき2人はダイニングに着いた。
「おはよう。」
明里紗が挨拶をした。
「部員もそろったことだし、さっさとやろーぜ!」
悠夜が立ち上がり、そう言った。
ローレンスは華恋と錬太のために2つの椅子を引き「どうぞ」と言った。
2人は申し訳なさそうに座った。
部長の明里紗が話しを進めようとした。
「じゃあ、まず昨日の件について…」
そう言いかけた明里紗の手首を千空が慌てて引っ張った。そして、首を振った。
「悠夜はまだ仲間じゃない。」
千空は小声でそう言った。
その声を聞き取った華恋が動揺した。
「千空君…そのことなんだけど…。」
「え?まさか…。」
一斉に皆の視線が悠夜の方に向く。
「な…なんだよ…。」
悠夜はたじろいだ。
まるで悪者扱いされているように。
けれど、実際5割ぐらいは悠夜は悪者扱いされている。
なぜなら、もしかしたら仲間にはならないかもしれないからだ。
魔力を持っているだけでは信用できない。
「華恋、2階に行こう。詳しく話して欲しい。」
千空がそう言うと、華恋は頷いて立ち上がった。
それに続いて千空は立ち上がり、明里紗、錬太、まなも立ち上がりついていこうとした。
理由はそれぞれ違う。
明里紗は少しでも早く情報を手にいれておきたかったから。
錬太は千空と華恋を2人っきりにさせたくなかったから。
まなは悠夜から一刻も早く離れたかったから。
ローレンスが動かなかったのは悠夜を見張る必要があったから。
悠夜は驚いた様子で皆の表情や行動をキョロキョロしながら見ていた。
「皆はここにいてくれ。詳しいことはちゃんと伝える。」
ちゃんと伝えるというのは通信魔法でのこと。
千空はそう言って華恋と2人で階段の方へ向かった。
「おい!何だよ!?オレ何かしたか!?」
悠夜のその言葉には誰も動かなかった。
「錬太君。」
明里紗が言った。
「心配だね〜?」
明里紗はニヤニヤしながら言った。
もう明里紗は錬太のことを見透かしているようだ。
「え…。」
錬太の顔が赤くなる。
そして誤魔化すようにローレンスが入れてくれた紅茶を一気に飲んだ。
話は千空の部屋で行われた。
2人は椅子に腰掛け話し始めた。
「どうして俺には分からなかったんだろう。」
その千空の呟きのような言葉から会話が始まった。
「私も最初はわからなかった。とても小さいの。その力。」
華恋は右手の人差指と親指で1cmぐらいの長さを示した。
「他に何かわかるか?」
「その力は戦闘に直接使えない。間接的に使えるのよ。」
華恋は手を元に戻し、身を乗り出して言った。
「つまり、コントロールが必要だと。」
華恋は頷いた。
「そう。上手くコントロールできれば相当な力よ。」
「どれくらいコントロールの能力があるかわかるか?」
「あたしは日常で何気なく使っていたけど、悠夜君は全くと言っていいほど気づいていないと思うし、使用率はほぼ0に等しいわ。」
「つまり、コントロール能力も0に等しいと。」
「うん。あと悠夜君から邪悪なものは感じないわ。」
「じゃあ、仲間にしても大丈夫だな。」
千空は少し安心したようにそう言った。
「うん。あ、まなちゃん怒りそうだから…ちょっと作戦があるの。」
華恋は手で子招きした。
「何だ…?」
2人がダイニングに戻ってくると悠夜は楽しそうにまなのコンパスを眺めていた。
まなはそんな悠夜を眺め、溜め息をついていた。
「千空、話はどうなったんだい?」
体内通信が無かったため、明里紗はすぐに千空に直接尋ねた。
”すぐ話す”と言うように千空は明里紗に向かって頷いた。
千空が席につくと、千空はすぐに話し始めた。
「今日から悠夜を仲間とする。」
まなは「何でですか!?」の「なっ」。悠夜は「まじかよ!?」の「まっ」を言った。
何故そこまでしか言えなかったのか。
千空が華恋の指示通り次から次へと話し始めたからだ。
「悠夜の力はごく僅かだ。今の状態では戦闘不能。守備能力さえも危うい。そこで練習を必要とする。」
そこで悠夜はようやく話すことができた。
まなは、もう何もいう気がなかった。
「どういうことだよ!」
「つまり、君は魔法が使えるんだ。」
「まじかよ!?え?まなみたいな物体が貰えるのか!?」
まなと呼ばれたことに、まなは怒った様子を見せた。
「あのコンパスは使わない。お前は…」
そこで華恋が立ち上がって言った。
「物体操作よ。」
「ぶったいそうさ…?」
「今まで物が勝手に動いたことない?」
「あー!」
「あるの?」
「えっとなあ!わからねぇ。」
悠夜のその言葉に皆は「やっぱり」というような表情をした。
「まあいい。これから練習すればいい。」
「じゃあ早速。」
そう言って立ち上がった明里紗の表情は楽しそうだった。
だが、
「いや、悠夜のことを頼むのは錬太だ。」
と千空が言った。
「え!?僕!?」
錬太は驚いてそう言った。
「物体操作だからな。」
千空には何か考えがあるようだった。
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