第22話




午前7時30分。
華恋は携帯のアラーム音で目を覚ました。
そして、急いで支度をする。

今日は華恋のクラスの学級登校日。

ダイニングに行くとローレンスしかいなかった。

「おはようございます。学校へ行くのですか?」
制服を着ている華恋を見てローレンスはそう尋ねた。

「はい。今日は学級登校日なんです。こんなときのために制服持ってて良かったぁ。」

そうこう言っている間にローレンスは華恋への朝食を準備した。
「いただきます。」
「んー。おいしい!」と華恋は満足げに言いつつ朝食を食べ終えた。

「じゃあ、行って来ます。」
そう言って立ち上がった華恋をローレンスは玄関まで見送りに行った。
「気を付けてくださいね。」
「ありがとう。昼までには戻ります!」
そう言って華恋は学校に向かった。



千空の家からアシュリー学園まで徒歩で約10分。華恋の家より断然近い。

学校に着いたのは8時20分。集合時間より10分早かったが、すでにほとんどの人が来ていた。
そして華恋は自分の席に着いた。他の人たちは自由に立って話している。

特に話す人もいない。千空達のいない学校は居心地が悪かった。

そんな華恋に一人の少女が話しかけてきた。

「佐藤さん、おはよう。」

彼女の名前は上坂水穂。
運動神経がよくて、サバサバしているタイプだ。
今までにこれと言って話したことのないクラスメイトだった。

「おはよう。」
華恋は挨拶を交わした。

ただ今までこれといって話したことはなかったので少しぎこちなかった。

少し沈黙があった。ただ華恋には物凄く長いように感じられた。

「夏休み2日目に学級登校日ってだるいよねー。」
水穂はそう話を始めた。
「そうだね。」

それからまたしばらく沈黙が続いたが、構わず水穂は話し続けた。
「佐藤さんてさ、黒羽君たちと仲良いよね。」
「そ、そうかな…。」
華恋は少し否定気味に言った。

「だって佐藤さん…あ、面倒だから華恋でいい?」
「え、うん。」

下の名前を呼び捨てにされるのは嫌ではなかった。
ただ、下の名前を呼び捨てにされることですぐに親近感がわいてきた。

「だって華恋は特定の友達いなかったでしょ?」
「良く知ってるね。」
華恋は少し驚いた。
「何言ってんの!クラスメイトでしょ!?」
「だね。」

少し不信感を感じた華恋だったが、水穂の言葉と笑みでその考えは消えた。
消えたというより消されたという方が正しいかったかもしれない。

「で、あたし思うんだけど、華恋って黒羽君が好きなのかなって――」
「ちっ、違うよ!」
華恋は両手を横に振って慌てて否定した。
そして、次は「え!?そうなの!?じゃあ誰!?」と来ると予想し、心の準備をしていたが予想ははずれた。

「じゃあ、大地君なんだ?」
驚いてしばらく硬直したが、華恋はすぐに俯いてしまった。

ちょうどその時先生が入ってきた。
「おーい。席着けー。話し合い始めるぞー。」
「じゃあまた続きは放課後ね。」
そう言って水穂は自分の席へと着いた。

水穂からは邪気も強い力も感じなかった。とりあえず不信感は抱かず、心を開いても良い相手だと自分で納得した。
その一方で水穂は全く読めなかった。つまり、思っていること全て、何一つ水穂のことを知ることができない。
したがって、思っていることも全て、何一つ水穂のことを知ることができなかった。

(今日は調子が悪いんだ。)

華恋は自分にそう言い聞かせ、水穂と仲良くなれることを心から喜んだ。



「ということで、うちのクラスはフリーマーケットになりました。各自1000円以内のものでいらなくなったものを持って来て下さい。」
「じゃあ解散。」

先生のその言葉で一斉にみんなが帰る支度をする。
それと同時に水穂が鞄を持って駆け寄ってきた。

「華恋、どこか寄って行かない?」
「ごめん。昼もう作ってくれてると思うから…。」
少し沈黙があった。早速ひかれたかと華恋は心配したが、
「華恋って家族想いなんだ?」
と言われ、心配はすぐになくなった。
「うーん、まあね。」

お昼はローレンスが作ってくれている。
ここで「母ではない」と言えば話はややこしくなるだろう。
そのことを察して華恋は否定しなかった。

(嘘つくのはちょっと苦しいかも…。でも”家族みたい”だからいいよね。)

「じゃあ途中まで一緒に帰ろう?」
「うん!」



「黒羽君ってもててるんだよー?」
「もててるの!?」
「だってあれだけ美男子だもん。『黒羽様』なんて呼ばれたり…」
「くっ黒羽様!?」
華恋は驚いて水穂の顔を覗き込んだ。

「冗談だってば。ねぇねぇ、何で大地君が好きなの?」
「錬太君はもててないの…?」
「さぁ?黒羽君に比べたらねぇ。」
「そっか。」
華恋は少し安心した。錬太のことが好きな子が何人いても困るからだ。

「てか、大地君のこと『錬太君』って呼んでるの?」
「え、うん。」

(ちょっとやばいかな…。)

クラスが違うのに仲が良いのはどこかおかしい。
何か接点があるはずだと思われる。
せっかく仲良くなった水穂に自分の能力を話して気味悪がれるのは極力避けたかった。

「へー。黒羽君もさー『千空君』みたいな?」
「うん。」
「仲良いんだねー!」
2人の会話はそこで途切れた。

「じゃあ、あたしこっちだから。バイバイ!」
「バイバイ!」

華恋は一先ず安心し、これからのことが楽しみで、とても心がわくわくしていた。
そして千空の家のドアを開けとても元気な声で言った。
「ただいまー!」



「あなた蟹座のイオタよね?」
教師の姿で聖茄は水穂の前に姿を現した。

「言わなくても分かってるのでしょう?」
水穂のその言葉に聖茄は微笑みながら「ええ。」と答えた。

「佐藤さんと仲良くなったのは…仕事上で?」
「仕事は仕事。あたしだってちゃんと高校生活を楽しみたいの。」
そう言って水穂は帰って行った。



水穂は携帯を取り出した。

「もしもしアウトラリス様ですか。」
「そうだ。」
「イオタです。個人的に手に入れた情報を念のため報告します。佐藤華恋、高校一年生。フルヴリア末裔と親しく、能力を持っていました。戦闘派ではないようですが。」
「そうか。これからも何か分かれば教えてくれ。」
「了解です。」

そう言って電話が切れた。

(こちらも楽しまなきゃね。)
そう思った水穂――イオタの顔は微笑んでいた。



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