第28話




「なんか、改めて2人は強いなぁーって思う。」
錬太の部屋で華恋はそう呟いた。2人とは明里紗と千空のこと。
「僕も思うよ。」
錬太はその言葉に反応した。

しばらく沈黙が続いた。その沈黙を破ったのは錬太だった。
「もう寝ようか。」
華恋は小さく頷いて部屋に戻った。



次の朝はみんな普段通りだった。

「錬太君と華恋ちゃんは原稿書けたかい?」
明里紗が問うた。
「僕はあと少しで完成です。」
「わたしもです。」
錬太に続いて華恋が言った。

「まなちゃんと悠夜君は?」
「ボクもあと少しですー!」
「オレはもうできた。」
「へぇ。じゃあ後で見せてもらおうか。」

明里紗が悠夜を少しからかった。厳しくチェックするつもりなのだ。

「もう一回見直す。」
悠夜が渋々とそう言うと、明里紗は満足したように頷いた。

「千空はもちろんできてるんだろ?」
「もちろん。」
明里紗が千空に当たり前のように問うと千空は当たり前のように答えた。
(すごい…!)
錬太と華恋は同時にそう思った。

「ところで、明里紗さんのクラスは文化祭、何するんですか?」
「ああ、映画だよ。」
「登校日…なかったですよね?」

即答した明里紗に疑問を持ったのは華恋だった。
夏休み中、学校に行ってなかった明里紗。何故もう映画だと決まったのだろう。
華恋はそう思ったのだ。

「なかったよ。」
「いつ決まったんですか?」
「夏休みが始まる前だよ。」
そう言う明里紗に皆驚いた様子を見せた。
「事前から決めていたということか。」
千空がまとめた。
「そういうことだね。」

「流石ですよね、上級生は。」
錬太が感心した。

「明里紗さんは何をするんですか?」
華恋は気になって役柄を尋ねた。

「役者だよ。」
「もしかしてヒロインですかー?」
まなが目を輝かせていった。

「そうだよ。」
「立候補したんですか?」
華恋が問うた。
明里紗が進んでヒロインをするとは思いにくかった。

「いいや、違う。推薦で決まっちゃってね。別に嫌ではなかったから引き受けたんだよ。」
「へぇー。すごいですね!」
華恋は感心した。
「いや、そうでもないよ。ところで、まなちゃんと悠夜君は何するんだい?初等部は劇だろ?」
「まなは白雪姫をやるですー!」
「俺もそうだ。」
「ああ、そうか。三年生と六年生は合同だったね。」
錬太が納得したように言った。

「何をするの?」
華恋が楽しそうに聞いた。
「まだ決まってないですー!」
まなの言葉に悠夜は頷いた。

「そっかー。そういえば、明里紗さんの映画はどんな話なんですか?」
華恋は映画の話に戻した。
「ラヴストーリーらしいよ。シナリオはまだできてないらしいけどね。」
「へー!ラヴストーリー!」
華恋は興味を持った。それと同時に千空はショックを受けた。顔にはあまり出ていなかったが、錬太にはわかった。

「俺、もう部屋に戻るから。」
千空がそう言って立ち上がった。
「あ、僕も戻ります。華恋ちゃん、先に戻るね。」
まだ文化祭の話をしている華恋に錬太は声をかけた。
「あ、うん。わかった。」
華恋のその言葉を聞くと、錬太は慌てて千空の後を追った。



「明里紗さんも悪気があってじゃないと思うよ?」
千空の部屋で錬太はそう言った。
「わかってる。」
千空は短く答えた。

「相手の人もきっと明里紗さんのこと気にしてないと思う。」
千空は無言だった。

「告白するまでに決まったことだよ。」
「けど、明里紗は気付いてたはずだ。」
「確信は持てなかったと思うよ。」
「だけど…これはないだろ?」
千空の顔は今までに見たこともない、情けない表情だった。

「ごめん。自分で気持ちを整理したいから、悪いが錬太。1人にしてくれないか?」
「うん。わかった。」
錬太はその場を静かに出て行った。



コンコン。
錬太の部屋のドアが軽く2回たたかれた。
「どーぞ。」
錬太は千空かと思ったが、そこに立っていたのは華恋だった。
表情は悲しそうだった。

「どうしたの?」
「錬太君怒ってないの?」
思わぬ言葉に錬太は驚いた。

「何で?」
「だって先に部屋に戻っちゃったから。」
「そのこと?別に怒ってないよ。」
「良かった。」
華恋はほっとしたように笑顔を見せた。

「どうかしたの?」
華恋が問うた。
「千空が明里紗さんの映画のことでショック受けてて…。」
「え?嘘。全然気付かなかった…。」
「多分気付いてたのは僕だけだと思うよ。」
「千空君大丈夫だった?」
心配する華恋。
そんな華恋を見て、錬太はやはり不安を抱いてしまう。
華恋は前に千空が好きだったのだから。

「…一人になりたいみたい。」
「そっか…。」
しばらく沈黙が続いた。

「入って、座ったら?」
ずっとドアの傍で立っていた華恋に錬太は声をかけた。
その言葉に華恋は頷いて、錬太の傍に駆け寄った。
「華恋ちゃんのクラス、フリーマーケットで良かったよ。」
錬太のその言葉に華恋は微笑んだ。
「わたしも、錬太君のクラスが喫茶店で良かったよ。コスプレだけど。」
華恋のその言葉で2人はともに笑った。

「フリーマーケット、買いに行くから。」
「わたしも喫茶店行く。」
「来なくていいよ。恥ずかしいから。」
錬太は恥ずかしそうに言った。
「絶対行く!!」
華恋はむきになって言った。

「メニューには何があるの?」
華恋は問うた。
「クッキーとか紅茶とか?」
「わぁ!おいしそう!」
華恋は目を輝かせて言った。
今の千空にとって、錬太と華恋が付き合うということは、ショックを大きくするものだったのかもしれない。



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