第30話




「みんな、大丈夫か!?」

千空はとりあえず全員がいることを確かめた。

千空の言葉に全員が頷く。

「とりあえず、各自シャワーを浴びろ。」

千空のその言葉でローレンス以外の全員が2階の部屋に向かう。
千空と明里紗、錬太と華恋、悠夜とまなが隣同士になり、2列縦隊となって各自の部屋に歩いて向かった。


「明里紗、大丈夫か?」

この”大丈夫”という言葉には色々な意味が含まれていた。

友人と思われるフォーマルハウト、響と呼ばれていた女のこと。
身体に関わる怪我のこと。

体力的にも精神的にもということだ。

それに「大丈夫」と明里紗が言えば、千空自身が安心できるという理由もあった。

「まあ…ちょっと左手がね。」
そう言った明里紗は笑っていたが、無理しているように見えた。

「何があったんだ!?」
心配そうに、けれど穏やかな口調ではなかった千空を宥めるように明里紗は穏やかな口調で言う。
「とりあえず、シャワー浴びな。話はその後だよ。」

千空は不満そうに頷いた。


「錬太君、凄い傷…。」
大量の血を改めて目の当たりにした華恋は少し怯えている様子を見せた。

「傷は浅いから大丈夫だよ。」
錬太は華恋を安心させるため、そう言った。

案の定、華恋はその言葉で少し安心した様子を見せた。

実際錬太の傷は浅かったのだが、傷は無数にあり、キリキリと痛むのだった。
だが、戦いにおいてこれくらいは覚悟の上でのことだった。

「華恋ちゃんは大丈夫?」
「わたしは、ずっとまなちゃんの魔方陣の中にいたから大丈夫。」
華恋は少し不満げに言った。

(後半何もできなかったなぁ…。)
そう思っていたのだった。


「大丈夫ですか…?」
心配して、そう悠夜に問うたのはまなだった。

「大丈夫だよ!」
心配されて苛立ったのか、少しぶっきらぼうに悠夜は答えた。

「でも…。」
まながそう言ったのも無理がなかった。

悠夜は血塗れだったのだから。

まだ大して時間が経っていないのか血はまだ赤い。
けれど、どんどん黒みを帯びていくように感じる。

「言っとくけどなぁ!この血は俺の血じゃないからな!犬の血なんだからな!なんか気持ち悪くなってきたー!」
いつもの調子で悠夜がそう言うと、何故かまなはほっとして思わず微笑んでいた。


「シャワー浴びたら下で話し合うから降りて来いよ。」
千空がそう声をかけると、悠夜から順にまな、明里紗が頷いてから部屋に入った。

「じゃあ、また後でな。」
「「うん。」」
千空より階段から遠い位置に部屋がある、錬太と華恋は千空が部屋に入るのを見届けた。

「下に行くとき、声かけてね。」
「うん。」
華恋は錬太にそう確認をとると、部屋の中に入った。




「じゃあ始めようか。」
明里紗の言葉で話し合いは始まった。

勿論、今日の戦いのことを反省も含めて話し合うのだ。

「ボクは今回守ることと、移動のときしか活躍できなかったですー。」
まなが申し訳なさそうに言った。

「まあ、あたしのせいかもしれないね。あたしの魔獣を召喚しなかったんだから。もし呼んでたら、まなちゃんはもっと魔方陣を描けたのかもしれないからね。」
そう言ったのは明里紗だった。

「わたしは戦うことすら出来なかったわ。」
悔しそうにそう述べたのは華恋だった。

「華恋ちゃんは場所を知らせてくれただけで十分だったよ。」
そう錬太がフォローした。

「でも、自分の身さえ守れなかったのよ!?そのせいで錬太君を怪我させてしまったし、まなちゃんは十分実力を発揮できなかった!」

「僕は錬金術、まともに使えなかったよ。もっとちゃんと使えたら皆を守るだけじゃなくて相手も金属化できたのに…。」

「もういい。反省はここまでにしよう。」
そう言ったのは千空だった。

全員が黙り込む。

「今回は動物操作のパーンと呼ばれた女と…明里紗、あいつは誰だ?」

あいつとは、フォーマルハウトのこと。
千空より明里紗のほうがよく知っている。

何故なら

「店の客だよ。」

戦いの中、フォーマルハウトが「知り合いだ。」と言ったから。

「清水響。またの名はフォーマルハウトみたいだけどね。能力は体内の水分を蒸発させることらしい。実際あたしの左手がやられたよ。」

そう言って明里紗は手袋を外して見せた。

何とも言えない左手。
明らかに、普通の手ではないことがわかった。

「それ、どうやったら治るんだ?」
悠夜が皆に問うように言った。

その答えは誰にもわからず、誰も悠夜の問いに答える者はいなかった。

しばらくして、明里紗が答えた。
「まあ、しばらく放っておいたら大丈夫さ。」

誰にも大丈夫という確証はなかった。

「とりあえず、敵は数が多いですね。」
そう言ったのはローレンスだった。

「あぁ。たぶん今回は魔獣が多かったからな。」
「犬なんか何匹いても平気だぜ!」
悠夜が千空の言ったことに対して「問題なし。」というように言った。

「まあ、黎明の天秤はあの2人だけじゃないだろうね。」

「まなが自由になって、明里紗が魔獣を召喚できたらまだましだっただろうな。」
「わたしもそう思う。」
華恋が千空に同意した。続いて、他の皆も頷く。

「じゃあ、シュミレーションしようか?」
そう言ったのは明里紗だった。

「シュミレーション?」
聞き返したのは錬太だ。

「できるだけ本番に近い形で練習するんだよ。ちゃんとあたしは魔獣を召喚するし、まなちゃんは魔方陣を描く。」

「それいいかもしれない。」
そう言ったのは千空だった。




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