第34話




朝のホームルームが終わると、大掃除。
全校生徒が大きな校舎を掃除する。

掃除が終わると始業式と簡単な礼拝が行われる。

それから学級でホームルームが終わり、用事のある者以外は下校する。

千空達は用事のある者で、明里紗以外は部室に集まっていた。

「あれ、部長は?」
悠夜が言った。

「文化祭の映画撮影らしい。」
溜め息まじりで千空が答えた。



「神咲さん!こっち!」
征治が明里紗を呼んだ。

呼ばれた明里紗は駆け寄っていく。

「じゃあ、怪我のため来れなかった明里紗のためにも現状報告します。」
監督の女の子が改まった口調で話し始めた。

「今まで撮影したのは過去のシーン。」
「過去のシーン?」
明里紗が問うた。

「神咲さんはシナリオ、知らないよね?」
「ラブストーリーとしか聞いてないね。」
気付いたように言った征治の言葉に明里紗が返事した。
「じゃあシナリオの人!説明して!」
監督の言葉でシナリオ係が説明しだした。

「高杉慎也と三雲実加は幼い頃から仲が良く、愛の誓いをします。」
「三雲実加とはあたしのことかい?」
「はい。高杉慎也は真宮君のことです。で、2人はそんな仲だったにも関わらず悲劇が訪れるのです。」
シナリオ係の人は声のトーンを落とし、熱く語った。

「その悲劇とは…交通事故です。高杉慎也は記憶喪失になってしまうのです!!!」
シナリオ係の人は声を張り上げて言った。

「2人は高校で出会います。」
「それまで会ってなかったのかい?」
「高杉慎也は大きな病院に行くので、5,6年の間会っていません。」
明里紗の問いに、シナリオ係の人が即答する。

「高校で再開しても、高杉慎也は三雲実加のことがわかりません。三雲実加も自分の目を疑います。」
「それで、どうなるんだい?」
「ある日、三雲実加は高杉慎也だと確信します。それがこれです。」
シナリオ係の言葉と同時に小道具の係だと思われ女の子がキーホルダーを持ってきた。
星型をしていて、綺麗に透き通っている。

「これは三雲実加が高杉慎也に小学2年生のときにプレゼントした手作りのキーホルダーです。」
「きれいだね。」
明里紗が正直な感想を述べると、小道具の係の女の子が「ありがとう。」と笑顔を見せた。

「それから三雲実加は高杉慎也が入っているバスケ部のマネージャーになって、2人は急接近します。
記憶を失っても、またお互いを愛し合うのです!!!」
シナリオ係の人は語り終えた。

「いい話だろう?」
征治が問うた。
「そうだね。」
明里紗はとりあえず同意した。

「じゃあ今日は星のキーホルダーを見つけるところと、野球部のマネージャーになるところ。過去は初等部の子役の助っ人呼んでるから。」
監督の指示と説明に、明里紗は「なるほどね。」という表情を見せた。



「おい!まだ部活はじめないのかよ!」
悠夜の問いに答える者はいなかった。

「おい。」
さっきより声のトーンを少し下げて悠夜が千空に言った。

「明里紗がいないだろう。」
「部長がいなくても副部長ができるだろ!」
「千空…はじめようよ。」
控えめに錬太が千空を促した。

「…そうだな。じゃあ、まずは昼飯でも食いに行くか。」
「賛成!」
華恋がそう言った。

「もうお腹ペコペコですー。」
まなもそう言う。

時刻は、12時半を過ぎていた。

「そういえば、今日は部活あるかどうかわからなかったから?ローレンスさん、お弁当作らなかったんだね。」
そう言ったのは1人お弁当を持ってきていた錬太だった。

「錬太は持ってきたんだ?」
「一応ね。」
「錬太君も食堂で食べるでしょ?」
そう言ったのは華恋だ。
「うん。1人で部室で食べるのは嫌だからね。」



食堂に行くと、明里紗達のクラスもいた。
明里紗は征治と監督の女の子に挟まれていた。
千空は少し離れた位置で、明里紗達の様子がわかるところに座った。

「明里紗さんのクラス、まだみたいね。」
華恋がそう言い終えたとき、明里紗のクラスの人達が立ち上がった。
どうやら食べ終えたらしい。

千空達のテーブルの傍を通るとき、明里紗が声をかけてきた。
「悪いね、千空。部活、先にはじめといてくれるかい?」
「わかった。」
千空は明里紗と目をあわさずに短く返事した。

そして明里紗はクラスメイト達と食堂から姿を消した。



「さっきの子、よく神咲さんと一緒にいるよね?」
「ああ、うん。」
「どういう関係なの?」
どういう関係なのか。

千空と明里紗の関係は、ただ幼馴染というだけでは済まされない。
もっともっと深い関係。幼馴染という言葉では軽い気がする。

明里紗がそう思ったのだ。
だから、言葉に詰まった。けれど言ったのは幼馴染という言葉だった。

(征治に伝えることでもないか…。)

「幼馴染だよ。」
「ふーん、幼馴染かぁ。」
征治の反応は、明里紗にとって少し意外だった。



「待たせたね。」
明里紗が部室に現れたのは、2時半頃だった。
その頃はパンフレットに載せる記事を錬太と華恋が描き終えたときだった。

「明里紗さん、見てください。」
華恋は記事を明里紗に見せた。

明里紗はざっと目を通してから感想を述べた。
「うん!凄くいいと思うよ。」
「良かったぁ。」
華恋はほっとしたように言った。

「他に何かやることあるかい?」
「特に何もないですー。」
「顧問から指示されたのはこれだけだ。」
千空は記事を指して言った。

「じゃあ、何するの?」
錬太が問うた。
「…じゃあ発表の練習するかい?」
「それがいいかもな。」
千空が答えた。

「じゃあ順番はどうするですかー?」
「じゃんけんだな!」
まなの質問に悠夜が答えた。

「それはちょっと…。」
錬太が控えめに否定した。

「まあ、内容によるね。順番はちゃんと考えたほうがいいと思うよ。」
「じゃあ、俺が後で考えるからとりあえず練習しよう。」
千空がそう言った。

「どうやってするの?」
そう問うたのは華恋だ。
「リハーサルみたいにするですかー?」
「そうだね。じゃあ1人ずつ発表してもらおうか。」
「じゃあ俺が先にする。」
そう言って千空は立ち上がった。

千空の様子が少しおかしい。
そう明里紗は気付いていたが、原因はわかっていなかった。



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