第38話




「遅いですよ。」
朝、悠夜がなかなか千空の屋敷に来ないので、まなが心配して悠夜の家まで行ったのだ。

「何してるですか。早く行くですよ。」
悠夜がドアの前で立ち竦んで動こうとしないため、まなが促した。

「もう!先行くです!」
まなは前方にいる千空と明里紗を追いかけるように早足で歩き始めた。
すると、悠夜は走ってきてまなを追い抜かし、まなの方に振り返って行った。
「まな、遅いぞ!」
「まなって呼ぶなー!」

(元気じゃないですか!)

そう思ったまなの表情は穏やかだった。



「おはよう、錬太。」
既にクラスにいた錬太に千空が挨拶をした。
「おはよう、千空。」
錬太はにっこりと笑って挨拶する。

「華恋は?」
「隣のクラスだよ?」
錬太が不思議そうに答えた。「何でそんなこと聞くの?」とでもいうように。

「何か2人一緒にいるのが自然だな。」
「そうかな?でも華恋ちゃんには親友が出来たみたいだしね?」
「親友…ああ、夏休みに図書館行ったときの。」
「うん。上坂水穂っていう子らしいよ。」
「上坂か。」
千空の脳内で水穂の姿が浮かんだ。

「千空、知ってるんだ。」
「一応、な。隣のクラスだしな。」
「ふーん。」
彼女の親友を知ってても知らなくてもいいか、と錬太は思ったのだった。



高校1年A組。つまり、千空と錬太のクラス。朝のホームルームに担任は来なかった。
その代わり、聖茄が来た。

そして今、優先タイムについて話していた。
「文化祭の準備が今日から本格的に始まります。文化部の子はそっちの準備もしたいだろうから、優先タイムというものがあります。高校から来た子意外はわかるよね?黒羽君。」

(何で俺なんだ?)

「知ってます。」
千空は大人しく答えた。聖茄がからかっているのはわかっていた。

「じゃあ、説明して。」
はあ、と少し溜め息をついて千空は立ち上がった。
「いいなあー。」だとか「ずるいぞ。」など、一部の男子が騒いでいる中。

「優先タイムっていうのは、6時まで学級で準備。6時から部活で準備できることだ。」
千空は簡潔に述べると、すぐ席についた。
「じゃあ説明は終わりね。このクラスは確か…ホストだったっけ?」
少し笑みを浮かべて聖茄は言った。主に千空の方を向いて。

「そうです先生!」
「先生のお願いなら、僕ホストになります!」
こうして、A組の朝のホームルームは終わった。



同様、他のクラスでも”優先タイム”が説明された。
高等部は移動教室などで千空と錬太が華恋や明里紗に会ったとき、
「6時からだよね。」
という短い会話があったのだ。

それからいつも通り屋上で昼食が行われている。
「文化祭、近づいてきたっていう気がするよね。」
華恋のわくわくしている様子が誰にでもわかる。
それと同時に、千空が動揺する。
「皆、近付いてきたら焦って準備するからね。」
明里紗が千空を気にせず話を続けた。

「今日も部活あるですかー?」
「当たり前だろ!な!部長!」
「そうだね。原稿は出来てるけど、一応集まった方がいいだろうね。どう思う?千空。」
明里紗は頑張って普段通り千空に話しかけた。

(別に気にしてない。)
明里紗は自分に言い聞かせた。

「そうだな。今日は1度集まって顧問に見せた方がいいだろう。」
「今思ったんだけど、本当に人集まるかな?」
不安そうに華恋が言った。
「どういうことですかー?」
「だって、こんな発表会聞きに来る人いる?」
しんと静まった。

(ああ、そうかな。)
みんなが同時に思った。

「多分大丈夫だよ!」
そう言ったのは錬太だった。
「どうして?」
「だって人気ランキングの上位の2人がするんだから…きっと大丈夫。」
錬太は自分に言い聞かせているようにもう一度”大丈夫”と小さく呟いた。

上位の2人とは千空と明里紗のこと。
本題からは少しずれているが、錬太の言葉でとりあえず全員安心することができた。
予鈴がなると「じゃあ、また。」と言ってそれぞれのクラスに帰った。



「ということで、白雪姫役は御円さんで、王子役は山下君で、魔女役は栢山君…。」
白雪姫の劇。初等部3年A組と6年A組で行われる。
役決めはくじで平等に決まり、納得いく予定だった。
「なんで魔女なのにオレなんだよ!」
「あら、いいじゃない。男の魔法使いもいいと思うわよ。」
担任の言葉で悠夜は口を噤んだが、心残りがありそうだった。



「黒羽君、ちょっと立って!」
「あ、うん。」
千空に声をかけたのは衣装係の女子だった。
寸法を測るため、メジャーを持っていた。

「じゃあ次、大地君。」
「あー、はい。」



「みんなー、品物持って来たー?」
「いらない物いっぱい持って来たよー!」
「はい、そこ!いらない物って言わない!」
進行係の言葉で皆がどっと沸いた。

「水穂、何持って来たー?」
「んー?忘れたー!華恋、持って来たのー?」
「もちろん持って来たよ!」
「だよねー。」
そう言ってから2人は同時に笑った。
「神咲さん!もうちょっと真宮君の方によって!」
監督にそう言われて明里紗が征治に一歩近寄る。

(こんなところ千空が見たら、またややこしくなるね…。)

明里紗がそう思ったのは、あまりにも密着しすぎだから。
そんなことを思ったことを後悔し、真剣に映画の撮影に取り組んだ。



「皆、楽しそうですね。珠州耶麻先生。」
そう言って聖茄のもとに現れたのは月夜。
「七瀬君は?準備しないのかしら?」
少し笑みを浮かべて聖茄が問う。
「さあね。」
月夜は目をそらしてそう答えた。




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