第40話




「あたし、クラスの方の準備が遅れてるから、週3日は優先タイムでもクラスを手伝うよ。」
明里紗が昼休み、皆に伝えた。
明里紗のクラスは映画なので準備が忙しい。
その上、夏休みの学級登校日全ての日を腕の怪我でヒロインが休んだため、過酷な状況になっているのだ。

「ボクも姐御と同じですー。」
「オレもだ。」
まなと悠夜が言った。2人は劇の練習で忙しいのだ。昨日、役が決まっただけだったのだ。

「皆、忙しいんだね。」
華恋が少し驚いて言った。
華恋がこんなに他人事でいられるのは、華恋のクラスはフリーマーケットだからだ。物は集まったので、あとは呼び込み、当番、飾りつけだけなのだ。
これくらいなら優先タイムなど関係なく、文化祭まで順調に進められる。

「僕達はどうだろう?千空。」
錬太が千空に問うた。
「そうだな、俺達は優先タイムまで手伝わなくても大丈夫だろう。」
「じゃあ、これからは別々に帰るですかー?」
「そういうことだな。俺と錬太と華恋は帰る。」
「まあ、月、水、金は部活だから皆で帰れるけどね。」
明里紗が付け足した。

「じゃあ、オレは誰と帰るんだ?」
「ボクと姐御に決まってるです!」
「悪いけど2人で帰ってくれるかい?多分、最終下校時刻過ぎると思うから。」
「そんなに忙しいのか?」
千空が心配そうに尋ねる。
「まあね。」
明里紗が肩をすくめて答えた。
そのとき予鈴が鳴った。
「じゃあ、また部活で。」
明里紗の言葉に全員が返事した。



「華恋ー。華恋って絵上手かったよねー?」
放課後、1年B組で細々とした作業が行われていた。
そんな中、水穂が声をかけてきた。

「えー。上手くないよ。」
手を振って否定した。
「嘘でしょ?いつも美術の先生に褒められてるじゃない!」
「そんなに褒められてないよ。」
「まあいいや。とりあえずパンフレット描いてくれない?あと、呼び込み用のチラシとポスターと。」
「そんなにー?」
少し顔を顰めて華恋は言った。
少しなら引き受けようと思っていたのだ。

「お願い!」
水穂は拝むように手を合わせて言った。
「…いいよ。そのかわり、水穂何か係りだったっけ?」

水穂は係り一覧表を取り出して自分の名を指した。
水穂の指先には”呼び込み係”と書かれていた。

「何で呼び込み係りなのに、パンフレット書くの?」
「だよね!あたしもそう思ってたんだけど、何かあのプロデューサーさんがさぁ。」
そう言った水穂は代表の女の子を指差した。
「こらー!そこ!指で人を指さない!」
笑いながらその女の子は水穂を叱った。

「だってあたしデザインとか無理!」
水穂はきっぱり言った。
「係りは水穂が勝手に勘違いしただけでしょ!」
「係りの分け方がおかしい!」
「じゃあごめんだけど華恋ちゃん。手伝ってあげて。」
「うん。」
「こらっ!無視するな!」
水穂がそう言い終えると、3人は笑った。
こんな毎日が続けばいいのに…。
華恋と水穂は同時にそう思った。



「じゃあ明里紗さんは珠州耶麻先生を嫌ってるんだ?」
「多分な。」
放課後、少し暇をしていた千空と錬太は雑談していた。

「僕はそんなに悪い人じゃないと思うんだけどな。」
「恐らく信用出来ないからだろう。俺もそう思う。」
「うーん…。人を信じるって難しいね。」
「そうだな。その上相手は自分を見透かしているようだから余計気に食わない。」

「千空君。」
同じクラスんの女子が話しかけてきた。
「紅茶の説明してくれないかな?」
「ああ、いいよ。」
そう言って千空は席を立った。

本当に暇になった錬太は、少し教室を見渡した。
そして、何かしなくてはと立ち上がった。
そのとき、視界に大量の荷物を持った女の子が入った。
「半分持つよ。」
そう言って錬太は荷物の半分を持ってあげた。
女の子は少し驚いた表情を見せてから、にっこり笑い
「ありがとう。」
と言った。

「この荷物、何?」
「布とか入ってるんだよ。」
「布って結構重いんだねー。」
女の子はクスクスと笑った。
「大地君って面白いね。」
「そうかな?」
不思議そうに錬太が言った。
「うん。あ、もし暇だったら手伝ってくれる?」
「うん、いいよ。」
錬太は快く引き受けた。



「じゃあ魔女役の子、栢山君、鏡に向かってのシーンね。」
先生が指示を出した。練習は3年と6年の合同で行っている。

悠夜が鏡の前に立った。そして、鏡役の子が鏡の後ろに立った。
そして、悠夜は台本を見ながら言った。
「鏡よ、鏡。世界で1番美しいのは…って先生!これ女の台詞じゃねーか!」
「あら、ほんとね。」
ほぼ全員が声をあげて笑った。
「静かに!」
先生が少し声を張り上げて注意すると、一気に静かになった。
まだ微かにクスクスと笑い声が聞こえる。

「えーと…じゃあ栢山君。アドリブでいける?」
「任せろ!」
悠夜の言葉で先生は安心したが、まなはハラハラしていた。

(栢山にアドリブなんて無理です!)

「鏡!おい、鏡!」
悠夜が大きな声で言う。
「世界で1番格好良いのはオレだな?」
しんと静まり、皆が笑った。その一方、まなは呆れていた。

(それじゃあ、まるで鏡に宣言してるみたいです。)

「か、栢山君。鏡に誰が格好良いか聞いてね?」
先生が言った。
「それだったらボクは格好良い白雪姫ですかー!」
まなは先生に訴えた。
それでまた笑いがおこる。
「じゃあセリフ考えておくから、次のシーンいきましょう。」
こんな調子で、3・6年生の劇は進んでいた。



「じゃあ今日はバスケ部マネージャーの実加を撮影します。第3体育館へ移動して下さい。」
2年A組の映画の役者とカメラマンと監督など、撮影に関わっているメンバー全員が第3体育館へ移動した。
体育館では運動部、バトミントン部とバレー部が練習していたが、監督が頼むと半面貸してくれることになった。

「さてと、まずバスケ部の練習して。その間、実加をバスケ部マネージャーにするシーン撮るから。」
監督の言葉で全員が動く。
「先生。顧問の役をお願いします。明里紗、ノックするところから。」
指示通り、明里紗がドアの前に立った。
「撮りまーす!」
監督の言葉でカメラが構えられる。
「3・2!」
1、と皆が心の中で数えた。

明里紗がコンコンとノックする。
「失礼します。」
「おー、三雲。どうした?」
「先生、私バスケ部のマネージャーになりたいんですが。」
「三雲がいいなら構わんが。」
「はい。よろしくお願いします。」
そこで実加が一礼する。

「はい、カット。じゃあ、次。点呼とって紹介シーン。撮りまーす!」
監督の言葉でカメラが構えられた。
「ちょっと待って。みんな本番だとわかってないだろう?」
慌てて、明里紗が監督に言った。
何故なら、皆熱心にバスケットボールを練習しているから。
バッシュの音が響く体育館は賑やかで、監督の言葉など聞こえていない状態だ。

「それで良いんだよ、明里紗。」
監督がニヤッと笑った。
そうか、と明里紗は監督が撮影することを皆に言わない理由がわかった。

(このままだと演技じゃなくて自然に撮れるからね。)

流石、監督だと明里紗は感心した。



午後6時5分頃。
魔法現象研究部の皆が第一体育館に集まった。
そのとき悠夜はイライラしていた。
「どうしたんだ?」
千空がまなに尋ねた。
「実はですね、栢山は魔女なのですが、鏡のシーンが上手く合わないのです。」
「鏡のシーン?」
問うたのは錬太だ。

「『世界で1番美しい人は誰?』と鏡に聞くシーンです。」
「それがどうしたんだい?」
「オレは男だ!美しさなんか求めてない!」
そういうことか、と皆が納得した。
女である魔女が悠夜のため、白雪姫のまなを羨むことが出来ないのだ。

「難しいねー。」
華恋が悩む。
「俺達には関係ない。練習するぞ。」
千空がくるっと背を向けた。
「あれ?千空君なんか冷たい。」
華恋が言うと、明里紗が答えた。
「きっと小学生のときのこと思い出してるんだろうね。」

「まな!体育館全体に結界の魔方陣を描いてくれ。」
「はいですー。」
まなが素早く大きな魔方陣を描いた。
そして千空が呪文を唱える。
「ロトンド・プレパラツィオーネ!」
体育館全体に結界が張られ、誰も入ることが出来なくなった。

「じゃあ、あたしも。ロトンド・アンダーレ・トレ・グランデ・カーネ・ステッラ!」
明里紗が呪文を唱えると、3体の魔獣が現れた。

「さあ練習を始めよう。」
こうして放課後の練習は始まった。



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© 浅海檸檬