第44話



ローレンスの些細な失敗は千空たちが帰ってみるとローレンスは然程気にしている様子もなく、ただ、
「今日は本当にご迷惑をおかけしてしまい、すいませんでした。」
という言葉だけですんだ。
それを見ていた一同はホッと安心したような表情になった。



それから更に時は過ぎ、いよいよ明日はアシュリー学園の文化祭の開幕である。
校舎には各クラスの宣伝の垂れ幕がかかっており、校内は綺麗に装飾されていた。

「いよいよだね!」
垂れ幕を見上げていた華恋に水穂は声をかけてきた。
二人とも明日の文化祭のため、受付の準備の手伝いに来ていたのだ。

「うー。なんか緊張してきたー。」
華恋が顔を少し歪ませてそう言った。
「どうして?あたしたち、フリマだから別に緊張なんてしなくていいでしょう?」
「だって明日部活の発表会があるんだよ?」
「あーそう言えば部活入ってたね!何部活だっけ?」

(そういえば、まだ水穂に言ってなかったなぁ。)

華恋は少し戸惑ってから、
「魔法現象研究部。」
と答えた。

少し怪しげな部活だと思われたかもしれない。
この世にありえるはずのない、”魔法”を研究する部活だと部活名だけでわかるから。

(これ、名付けたのわたしだったんだよね…。)

「…なんかすごいね!明日何するの?」
水穂の反応は普通だった。
その水穂の反応を見て、華恋は一安心した。

「研究発表。もしかして来る?」
「もちろん!友達の発表見ないわけないじゃない!」
友達という言葉が華恋にとってとても嬉しいものに感じられた。

不特定の友達がいた毎日。
親友と呼べるような友達がずっと欲しかった。
自分の能力を気にせず、いつも一緒にいられるような友達が。
そんなときに、現れたのは千空達だった。
本当の友達、仲間。嬉しかった。
でも、千空と錬太は男子、またまなと悠夜は年下、明里紗は先輩。
何か共通点が少ないような気がした。
それで満足しなかったわけではない。満足だった。
でも、同じクラスに特別仲の良い女の子の友達が欲しかった。
夏休みに水穂が声をかけてくれたことを本当に感謝している。

「姉さん!」
華恋と水穂の後方から男子の声がした。
華恋が振り向くと前髪を噴水ヘアにした、かわいらしい少年がいた。

(え、”姉さん”…?)

「景!どうしたの?」

水穂は少年のことを景と呼んだ。景と呼ばれた少年は水穂のことを”姉さん”と呼んだ。

「特に何もないよ!ただ姉さんを見かけただけだから。」
「もしかして…水穂の弟?」
華恋はおそるおそる聞いてみた。
「うん。」
「弟いたんだ。」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「聞いてないよー。」

「初めまして、中二の上坂景です。」
景は軽く華恋に会釈した。
華恋も慌てて会釈した
「お姉さんと同じクラスの佐藤華恋です。」
そういうと景は華恋にニコッと笑ってみせた。
いい子だなと華恋は感心した。

「じゃあ、俺教室戻るよ。」
「うん。じゃあまたね。」
そして景は去って行った。

「いい子だね!」
華恋は素直に水穂に告げた。
「うん。ありがと。」
水穂は嬉しそうに微笑んだ。

「そういえば、華恋。人気ランキング誰に入れた?」
「あー忘れてた!」

ランキング発表は文化祭のオープニングのときに同時に発表される。
つまり、投票は今日までなのだ。

「やっぱり、あたしは千空君に入れたよ。」
水穂の言う通りだと華恋は感じた。
ルックスも性格も運動神経もほとんど完璧に揃っている千空は堂々と一位を取るべき人だ。

(だけど…。)

「だけど、やっぱり…わたしは錬太君に入れる!」

(あ…惚気だとか言われるかな…。)

「うん!流石華恋だよ!あたしは華恋が錬太君に入れるって信じてた。」
「…ありがとう!」
華恋は水穂と友達になって良かったと本当に感じた。



「錬太…。」
「何?」
「俺、お前の衣装と代わりたいんだけど。」
「駄目だよ、千空。もう決まったんだから。」

教室で話している千空と錬太。
錬太は制服がよく似合うということで、コスプレ喫茶でブレザーを着ることになったのだが、千空は執事服だった。
もう、見ただけで完全にホストだ。

「黒羽君!その格好で『お帰りなさいお嬢様。』って言ってみて!」
コスプレ喫茶を発案した女子がそう言った。
「悪いが、断る。」
千空は軽く拒否した。

「この展示ってなんの目的があるんだろう?」
錬太は苦笑しながら千空に問うた。
「完全に女子の自己満足だな。」
千空は肩を竦めた。

「ローレンスも来るって言うのにな。」
「ローレンスさんよりは明里紗さんでしょ?」
錬太が千空をからかうと千空は話題を変えた。

「今日、ランキング投票最終日だな。錬太、行ったか?」
「ううん、まだ。ここんとこ忙しかったからね。」
「じゃあ帰り一緒に行くか。」
「うん!やっぱ千空は明里紗さんに入れるの?」
「…もちろんだ。錬太は華恋だろ?」
「うん。」
錬太は笑顔で答えた。

「明里紗さんに入れてもいいんだけどね。やっぱりここは華恋ちゃんに入れるべきだろうって思ったから。」



「神崎さん。」
「真宮君。どうしたんだい?」
教室で征治が明里紗に声をかけてきた。

「もう、投票行った?」
「いや、まだだよ。」
「そっか。僕に入れてくれること、考えてくれた?」
「うん。考えはしたよ。」

実際のところ明里紗は千空に入れるか征治に入れるか迷っていた。
誰に入れようか迷ってるぐらいなら、征治に入れたほうがいい。
だが、千空が今まで以上にいれたいような気がするのだ。

「ありがとう。」
「でも、まだ誰に入れるか決めてないから。」
「うん。考えてくれただけで嬉しいんだ。」
「そっか。」
明里紗は無理に笑顔を作った。
それに合わせて征治も微笑んだ。



「まな!明日誰とまわるんだ?」
悠夜はまなに明日のことを訊ねていた。

「ちあきとー錬ちゃんとーさっちゃんとー」
「もういい。みんな展示で忙しいのわかってるのか?」
「別に二時間ぐらいどうってことないです。」
「まあみんな当番を同じにしてくれたからいいけどよー。なあ、俺と一緒にまわらねぇ?」
「二人でですか?」
「おう。」
「いいですよ。」
「よし、じゃあ決まりだな!」
悠夜は万歳した。

「静かにしていてくださいですよ。」
「なんだって?」
「別に何でもないです。」
まなはくすっと笑った。



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