第48話





ローレンスは千空達が学校へ行くのを見届けると、文化祭へ行く準備をした。
お金と携帯を持ち、千空の母の服を着てOASISへ向かった。
和輝とはメールのやり取りの結果、OASISで待ち合わせをしている。


バールに行くと扉の前で和輝は待っていた。

「お待たせして申し訳ありません。」
「いえ。今日はドレスではないんですね。」
「はい。前のこともありますので…。」
「でも今日は文化祭ですよ。」

ローレンスがはっとしたような顔をすると和輝は笑った。

「そっちの服も似合いますよ。さあ、行きましょうか。」
「はい。」

アシュリー学園に向かって2人で並んで歩く。
いつもはバールの中でしか会わない2人が街を歩いているのはどこか新鮮であった。


アシュリー学園に着くと既に校門には大きな列ができていた。

「凄い人ですね。」
「はい。」
「まずはどこに行くんですか?」
「特には考えておりませんでした…。マスターはどこに行きたいですか?」
「ここでマスターはよしてください。」
和輝は少し照れたような顔で言う。

「では…瀬賀世さん。」
「はい。まあ、適当に回りましょうか。」
「はい。」



「征治君大丈夫?」
数人の女の子が征治の元に駆け寄ってきた。
そこで征治は我に返った。

「え、何が?」
「ランキングでショック受けてるんじゃないかなって皆で心配してたの。
でも、私たちは征治君を応援してるから!たった一票差だったでしょ!」

その言葉を聞いて征治は驚いた。
たった一票差ではないか。
どうして自分はそれだけで落ち込んでいたのだろう。

「ありがとう。なんか元気出たよ。でも悪いけど今は一人にしておいてくれないかな?」
「征治君…。」
女の子たちは心配そうな顔をする。

「もう大丈夫だから。」
征治が笑ってみせると女の子たちは嬉しそうに笑い返して去って行った。

「さて、神咲さんのところにでも行くか。」
征治は最後の賭けに近い行動を文化祭で決行しようとしていた。



「姉さん!」
「景!」
フリーマーケットに来たのは水穂の弟、景だった。

「あ、いらっしゃーい。」
華恋が笑顔で応対する。
「華恋さん、こんにちは。」
「良かったら何か買って行ってねー。」
「はい!」
景はそう返事するとくるっと水穂の方に向き直った。

「姉さん、いつ暇?」
「ん、なんで?」
「俺、姉さんと回りたい!駄目…?」
「駄目じゃないけど…。」
水穂はチラッと華恋の方を見た。

「あ、明日なら私錬太君と回ると思うから…。」
「そっか、じゃあ景。明日にしよっか。」
「やったー!」
「あ、どうせなら華恋の部活の発表見に行こうかな。」
「え、来なくて良いよー。」
華恋は苦笑いしながら答えた。

「華恋さん、何の部活に入ってるんですか?」
景に聞かれて華恋はまたしても戸惑った。
水穂に言われてから二度目だ。

「えーっと…魔法現象研究部。」
そう言った華恋の目は下を向いていた。
「面白そうな部活ですね。」
景は微笑んでそう言い、それ以上何もいわなかった。

「じゃあ姉さん!明日ね。」
景は手を振って教室を出て行った。

「あらら…。私ってやっぱ商売向いてない。」
「どうしたの?」
「景君何も買わずに行っちゃった。さっきもね、600円でテディベアとリボン売っちゃったの。」
「まあ、楽しかったら良いんじゃない?」
「そうだね。」
華恋は微笑んで見せた。

「お姉さんたち、これいくら?」
そう言って来たのはディアンサスとセィーリアだった。
水穂は動揺しないように必死にこらえた。

(絶対わざとだ…!)



「次はどこに行こうかしら。」
そう言ってパンフレットと睨めっこしているのはスピカだ。
そして、ふと目に入ったのは『中等部2年A組 お化け屋敷』という文字。
「確かここは…双子座のところよね。…行ってみるか。」


「「いらっしゃいませ。あ…。」」
「流石双子ね。声そろえて言っちゃって。」
お化け屋敷に来たスピカを迎えたのは、スピカが会うのを望んでいた相手、慰音と璃音だ。

「何しに来たの。ここにフルヴリアはいないわ。」
慰音は冷たく対応する。
「あら、それが客に対する態度?私はただお化け屋敷に来ただけなのに。
まあ、知り合いが受付じゃ面白さが減ったけど。」
そう言うスピカを慰音は軽く睨む。

「まあ、そのテディベアを見るところ、楽しんでいるようだな。」
璃音が冷静に対応する。
「この子?可愛いでしょ。佐藤華恋のフリーマーケットで買ったのよ。
今日一日私の話相手ってわけ。他のみんなは連れがいるから。」

「では、中に入って下さい。」
慰音は押すように言った。
「あらら、冷たいのね。話くらい付き合ってくれてもいいんじゃないの?」
「次のお客様のご迷惑となります。」

スピカが振り向くとひと組のカップルがいた。
「ふん。こっちもか。まあお化け屋敷だものね。じゃあまたね。」


「なんなの、あのお化け屋敷…!ちっともおもしろくないじゃない。
あんなのでキャーキャー言ってる奴は馬鹿だわ。」
スピカにとってお化け屋敷は大して怖くなかった。
逆に何も動揺しないスピカにお化け役の人たちが怯えた。

「何よ怖がっちゃって。」
そう言ったスピカは明らかに不機嫌だった。



「あ、ちあき見つけたですー!」
まなが指差して言った。
「あ、ほんとだ。」
「少しからかってあげようか。」
そう言った明里紗の顔は生き生きしていた。

「ちあきー!」
「あ、まな。それに悠夜も。」
「呼び込みか。大変そうだな。」
「悠夜、お前なんか…。」
そのとき千空の視界が光った。
それと同時にシャッター音がした。

「うん。良く撮れた!」
その右手にはデジカメが持たれていた。

「明里紗!今すぐ消せ!」
「どっちにしろ記念に撮る予定だったんだから良いだろう?」
「そういう問題じゃない!」
「あ、どっちにしろ撮るつもりだったんだー。」
明里紗がニヤニヤしながら言う。

「ちあき、意外とその格好好きですかー?」
「結構気に入ってるんだろう?」
まなには悪気はなかったが、悠夜はわざと言っているのがわかる。
「違う!違うからな!」

「あ、千空君だー。一緒に写真とってー?」
「千空、撮ってあげなよ。」
「俺は文化祭のマスコットキャラクターか。」
「そうなんじゃない?」
「明里紗…!」

千空は真面目に言っているのに対し、明里紗は楽しそうだ。

「あ、あっちに錬ちゃんがいるですー!」
まなが元気良く手を振ると、錬太は気が付き、また元気良く振り返した。



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© 浅海檸檬