第49話





「うーん…。これとかどうだ?」
「でも、それよりこっちのほうが可愛いわ。…ねぇ、あれはどう?」

フリーマーケットの店先で相談しているカップル。

それは、ディアンサスとセィーリアだった。
アクセサリーを探しにきた二人は、嫌がらせのようにずっと水穂の商品を眺めている。

「あ、それいいかもな。すいませーん!これもう一つありますかー?」
「…水穂。お客さん、呼んでるんじゃない?」

返事をする様子がない水穂に、華恋が呼び掛ける。

「あぁ…うん…。」

華恋に言われた水穂は、嫌そうに近寄っていった。

「はい、何ですか。」
「これもう一個ありませんかー?」

ディアンサスは、ニヤニヤと笑いながら問う。
話している間に、せっかくだからお揃いにしようと決まったのだ。

「…出ている物で全てです。」
「あら、残念。」

セィーリアが肩を落として呟いた。
その様子を遠巻きに見ていた華恋が二人に声をかける。

「何をお探しですか?」
「お揃いで何かアクセサリーを買おうと思って。」
「わぁ、いいですねー。」

華恋が羨ましそうに言うと、二人は意気投合したように品物を見はじめた。

「あれがフルヴリアの仲間の佐藤華恋ってわけか。」

ディアンサスが水穂のほうを見て呟く。
水穂は嫌そうに顔をしかめて無視した。

「無視かよ。」
「…他人のふりをするという気遣いは無いのか。」
「そんなの俺にあるわけないだろ?」

当然のように言うディアンサスに、水穂が溜め息をつく。
と、セィーリアが振り返った。

「ちょっと来て、ディア!」
「んー?何だ?セィーリア。」
「これなら貴方にも似合うと思うの。どう?」

長々と続くカップルの会話に、水穂はうんざりして肩をおとした。




「…何か用ですか、スピカ。」
「別に何も?…やっぱり予想通り、一人寂しくまわってるんだなぁ、と思って。」

テディベアを抱いたスピカは、偶然レグルスに遭遇していた。

「悪いですか。」
「あんたがいいならいいと思うけど。」

肩をすくめるスピカは、見下すような目でレグルスを見る。
その視線は、テディベアがいるから一人ではない、と言外に主張していた。

「私は構いません。フルヴリアの通う学校を見ておく、というのが私の任務ですから。」
「あっそ。アウトラリスはたぶん、私には何も期待してないでしょうから勝手に楽しませてもらうわ。じゃあね。」

スピカはそう言い捨てると、踵を返して歩き出す。
レグルスは何をするでもなく、ぼんやりとそれを見送っていた。

が、ふとスピカがレグルスのほうを振り返る。

「別に見たいとこが無いなら、愛しのご主人様にお土産でも探して帰れば?」

前を向いてさっさと歩いて行く歩いていくスピカ。

「ご主人様も来られているのでは…?」

果たして土産を買う必要はあるのか、というレグルスの疑問を聞く気は、スピカには全く無かった。




「たくさん店がありますね…。」

校庭を見て、ローレンスは静かに驚いていた。
校庭に並ぶのは、様々な学年やクラブの出し物である店。
食べ物や、射的、普通に物を売っている店と、色々な種類があった。

「まずはここを見てまわりますか?」
「そうしましょうか。」

特にどれを見たい、というのが思いつかなかった2人は、ゆっくりと店を見てまわる。

「あれは、何ですか?」

ローレンスが指差した方向を、和輝は見て、疑問に答えた。

「あぁ、綿菓子ですよ。お祭りとかで、よく見ませんか?」
「すいません。行ったことが無いもので…。」

つい最近、人間が住む世界に召喚されたローレンスは、普通皆が知っていることを知らない。

「大丈夫ですよ。知らなくても大したことは無いし。…食べてみますか?」
「はい!」

気にすることもなく言う和輝に、ローレンスは嬉しそうに返事をする。

(きっと、瀬賀世さんは私に気をつかって下さっているんだ。)

そう思いながらも、普通とは違うところを全く気にしない様子で接してくれる和輝が、ローレンスの救いになっていた。

「はい、どうぞ。」

店の方へ行って戻ってきた和輝から差し出されるのは、何か知らないアニメのキャラクターが描かれた袋。
不思議に思いながらもあけてみると、中には甘い香りのする、ふわふわした物があった。

「…甘いですね。」
「そういう食べ物ですからね。」

くすくす笑って言う和輝に、ローレンスは微笑むと、また綿菓子に口をつけた。



「お土産…?ご主人様も来ておられるのに?」

ぶつぶつと呟きながら歩くレグルス。
単なる思い付きで言っただけの言葉を、真面目なレグルスは真剣に考えているのだ。
確かに、土産は買って帰ったほうがいいような気もする。
しかし、同じ場に来ているということは、被らないようなものを買って行かなければいけないのだ。

「何か…。」

レグルスは店を見ながら歩く。

スピカの言う通り、することは無いのだ。
せっかく堂々とフルヴリアに近付くチャンスなのだから、ということで皆参加しているが、特に見るべきものもない。
フルヴリアの仲間を見ておきたいのならば、フルヴリア達のクラブ、魔法現象研究部のスピーチを見ればいいのだ。

それまですることは無い。
レグルスは何を探せばいいのかもわからず、ただ歩き回る。

「あ!すみません…!」

周囲も見えず歩いていたレグルスは誰かにぶつかってしまい、慌てて謝った。

「いえ、大丈夫です。特に怪我などもしておりませんし…。」

レグルスがぶつかったのは、綿菓子を持った金髪の女性、ローレンスだった。

「大丈夫ですか?ローレンスさん。」
「はい、マスター…瀬賀世さんのおかげで。」

倒れかけたローレンスを支えた和輝が、ローレンスの後ろから現れる。

「あ…。」
「どうかしましたか?」

ローレンスがぶつかった相手を見て声を上げた和輝に、ローレンスは不思議そうな顔をむける。

「equilibrioの方…ですよね?」
「equilibrio?」

聞きなれない言葉を耳にして、ローレンスは首を傾げた。

「イタリア語で、天秤…という意味ですよ。私の勤める会社です。」

ローレンスの疑問には、レグルスが答えた。

Equilibrioとは、レグルスの言ったとおり、イタリア語で天秤。
黎明の天秤が、活動費や、集まる場所の確保のため表向き経営している会社。
主に扱っているものは、紅茶やコーヒー、茶菓子などだった。

「いつもお世話になっております。」
「いえ、こちらこそ。」

和輝とレグルスは互いに腰を折り、挨拶をかわす。

「あ…では、あのときもそれで…。」

ローレンスが気付いたように声をあげると、次は和輝が首を傾げた。

「あのとき?」
「はい。前に、oasisにお邪魔したとき、入っていらっしゃったのは確か貴方ですよね?」
「すみません。覚えておりませんが…。」

レグルスは困惑したように首を傾げる。
と、和輝が言った。

「あぁ、あのときですね。確か、紅茶がなくなったので持ってきて頂いたんです。
彼は社長秘書なんですが、私は昔からの客ということで今も持ってきていただくんですよ。」
「社長秘書!?それは凄いですね…お若いのに。」
「いえ、そんなことは…。父と社長が知り合いだったものですから…。」

レグルスが俯いて言うと、ローレンスは心底感心したように微笑んだ。

「それでも、実力が無いと秘書なんて重要な仕事はできないと思いますよ。」
「…ありがとうございます。」

レグルスは照れたように礼を言うと、2人に深く腰を折った。

「それでは、あまりお邪魔してもいけませんので失礼します。先程は本当に申し訳ありませんでした。」
「もう気になさらないでください。」

3人は再び丁寧に挨拶をすると、レグルスが去っていくのを見送る。

「あの方が社長秘書というのも凄いですが、秘書の方に紅茶を届けていただくというのも凄いですね。」

レグルスを見送りながら呟いたローレンスに、和輝は微笑んで言った。

「彼がまだ普通の社員で、配達や宣伝も行っていたときからの知り合いなんですよ。
その時は、今とは違う場所に店を出していたんですけどね。」
「そうなんですか?」
「はい。…5年ほど前でしょうか。」

和輝が頷く。

「やはり今と同じように紅茶を扱っていたのですか?」
「はい。…紅茶、好きなんです。」

和輝が微笑んで言うと、ローレンスは改めてレグルスが歩いて行ったほうを見つめた。

「また、お会いしたいです。」
「いいですね。誘っておきます。」

2人は楽しそうに笑いあうと、また他の店を見ながら歩き出した。



「実力…か。」

2人の元から去ったレグルスは、一人呟く。

黎明の天秤の仲間からも、レグルスは父親のコネで入ったといわれ続けてきた。
言われなれていたし、そう言われても仕方がないのだと諦めていた。
しかし…

「よりによって、フルヴリアの仲間に言われるとは…。」

初めて認めてくれた、主人意外の人。

敵だとわかっていながらも、レグルスは湧き上がる笑みを隠すことができなかった。




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© 睦月雨兎