第54話





「おはようですー。」

目を擦りながら階段を降りて来たまな。
今日は文化祭2日目。限定公開の日、つまり生徒だけの文化祭の日だ。
ダイニングすでに千空とローレンスと明里紗、そして昨日仲間になったばかりの双子、慰音と璃音がいた。

「おはよう、まなちゃん。」
「…おはよう。」
「おはよ。」
「おはよう。」
「おはようございます。」

挨拶が皆から帰って来て、まなは賑やかになったことを嬉しく感じた。




「さて、今日はみんなフリーの日だね。どうする?」

そう言ったのは明里紗。
8人は円のようになり、集まっていた。

「ボクは姐御の映画を見に行きたいですー!」
真先に言うのはまな。

「わたしも行きたいな。」
続いて言ったのは華恋。

「俺は行きたくない。」
そう言ったのは千空だった。

「まあ、あたしも自分の映画はもう見たから見たくないけど…。
とりあえず、みんなで楽しめるところに行こう。それから別行動すればいい。」
明里紗の言うことに皆は頷いた。

「じゃあ、改めてどうする?」
「お化け屋敷行こうぜ!」
「楽しめるのは悠夜だけですー。」

オカルトが好きな悠夜にまなはそう言った。

「慰音たちも自分のクラスのお化け屋敷に行っても楽しくないわ。」
「拙者も姉上に同感だ。」
「じゃあ、適当に回りながら決めたらどう?」
そう言った錬太に皆が納得した。




「じゃあ、ここから別行動にするかい?」

ご飯を皆で食べ終えた後、明里紗がそう言った。

「じゃあ、さっちゃん!一緒に映画見に行くですー!」
「え、あ…」
華恋が戸惑いながら錬太の方を見る。
今日は2人で回ろうと約束していたからだ。

その様子を見ていたまなは、笑顔で言う。
「じゃあ錬ちゃんと3人で見に行くです!」
「そういうことじゃないだろ。」

悠夜は呆れたように言った。
悠夜にそう言われてまなはやっと3人では自分が邪魔ものになるということに気づいたようだ。

「じゃあオレも見に行く。」
そう言ったのは悠夜。それに対してまなは驚いた表情を見せた。
「慰音と璃音はどうする?」
千空が慰音と璃音に尋ねた。

「拙者は姉上と2人で文化祭を楽しみたい。」
「慰音もそうしたいのだわ。」
「じゃあ必然的に俺は明里紗と回ることになるな。」
千空がそう言って明里紗の方を見ると明里紗は視線を外して「そうだね。」とだけ言った。
「じゃあまた後で。」
そう言って別れた8人はそれぞれの文化祭を過ごし始めた。



映画は時間が迫っているせいか、満席に近かった。
「ここ空いてるよ。」
華恋が指したのは3人の空き席。4人いる彼らには足りなかった。

「じゃあ僕他の席探して座るから皆ここに座って。」
真先にそう言った錬太に華恋は慌てた。
「え、じゃあ私も行く!」
「じゃあボクも行くですー!」
「お前まで行ったら意味無いだろ!ここに座れ。」
悠夜がまなの手を掴み、ぐいっと引っ張った。

力任せに座らされたまなは少し怒っているようだった。
「栢山が掴んだところヒリヒリするです。」
「悪かったな。」
栢山がそう言うと沈黙ができた。
周りがざわついていても、2人の会話の途切れは不思議と辛いものがあった。

「あのさ、」
そう言って沈黙を破ったのは悠夜。
「なにですか。」
「何でオレだけ苗字で呼ぶんだ?」
「じゃあ悠君。」
「…。」

「何で黙るですか!?」
そう言ってまなは隣に座る悠夜を見た。
「別に。」
そう言った悠夜はどこか嬉しそうだった。



『まもなく映画が始まります。』
「そろそろだね。」
嬉しそうに言う華恋。
「うん。…まなちゃんと悠夜君大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。あの二人最近仲良い気がするもん。」
「なら良かった。」
「それに…文化祭は二人で回ろうって決めてたでしょ?」
恥ずかしそうに言う華恋に錬太は微笑んだ。
「そうだね。」
そして映画上映のため、電気が消されたあと二人はそっと手を繋いだ。



「姉上!次はあれを食べ…」
璃音がそう言いかけて、言うのをやめたのは目の前に上坂水穂と景がいたからだった。
慰音と璃音は黙った。昨日黎明の天秤を抜けたばかりだったから。
「別に何もしないわよ。」
水穂は前髪を払いのけて言った。
「あたしは、高校生活を楽しみたいから学校に来ている。フルヴリア側と戦うためじゃないから。」
そう言って水穂は景と共に通り過ぎて言った。
「…ありがとう。」
小さな声でそう言った慰音。それに気付いたのは璃音だけではないかもしれない。



「明里紗なんか変じゃないか?」
「そうかい?」
明里紗はそうは言うもの、千空と目を合わせない。
それに我慢が出来なくなり、千空は明里紗の前に立ちふさがった。
明里紗は驚いた顔をした。
「さっきから何か俺を避けてないか?俺、明里紗に何かしたか?それとも他に誰かと何かあったのか?」
千空が一気にそう言うと、明里紗は溜め息をついて視線を足元に落とした。
「昨日真宮君に質問されたんだ。」
千空は何も言わず、話の続きを待った。

「千空はあたしの何かって聞かれてね。千空はただの幼馴染だって言ったら、本当にそれだけ?って聞かれて…。」

千空は黙って明里紗の話を聞いていた。

「千空はあたしの何?あたしは千空の何?ただの幼馴染じゃいけないのかい?」

そこでやっと千空は口を開いた。
「俺は明里紗の幼馴染で、姉弟のような関係だって、前に明里紗が言っただろ?
真宮が何だよ。そんなのどうだっていいじゃないか。明里紗の勝手だ。」
千空はそう言って俯いてしまった。

「でもあたしは勝手過ぎたよ…。告白されて、幼馴染だとか何とか言って、暢気に同じ家に住み着いて…。悪かったね、千空。」
「そんなことない!幼馴染なんだから同じ家に住んでもいいじゃないか。…勝手に明里紗のこと好きになった俺が悪いんだ…。だから明里紗は何も…!」

気付くと透明の雫が床にポタポタと落ちていた。
千空の涙ではない。明里紗の涙だった。

「ちょっと1人にしてくれるかい?」
涙を手で拭いながら明里紗はそう言った。




文化祭は終わり、後片付けに入った。
後片付けも全て終わった後は、後夜祭、最後の締めくくりだ。
キャンプファイヤーの周りを皆がフォークダンスを踊っている。
「あれ、千空はフォークダンスいいの?」
そう声をかけたのは錬太だった。
千空は昇降口の前の階段に腰掛けていた。
「俺はいいんだ。錬太こそいいのか?」
「華恋ちゃんも抜けてるから良いんだ。明里紗さんは…?」
「1人にして欲しいんだってさ。」
「何かあったの?」
真剣な顔に変った錬太は千空の隣に腰かけた。
「俺は明里紗の何で、明里紗は俺の何だ?」
千空は錬太を見てそう言った。
「千空は明里紗さんの仲間で、明里紗さんは千空の仲間だよ。」
「そうだな。」
千空は少し笑ってそう言った。

「でももう一つ言えることがあるよ。明里紗さんは千空の好きな人。違う?」
「さっき明里紗、泣いたんだ。俺の前で初めて。いつも守られてばかりの俺は泣き虫で、明里紗が泣いてるのなんて見た事なかった。
実際今日明里紗が泣いて俺は何もできなかった。それどころか1人にして…。
俺って最悪だな。良くこれで好きだとか言えたなって思った。」
「でもそれは今からでも遅くないいんじゃない?ほら。」
そう言って錬太が指した先には明里紗が立っていた。
「千空、話したいことがあるんだけど。」
「ああ。」
「じゃあ僕は席を外すね。」

「千空、あたしは千空のことが好きだよ。」
千空は黙っていた。
「でも、あたしは女の子らしくないし。髪伸ばしてても、ランキングで1位取っても、千空より強いし。そんなあたしと千空は釣り合うのかなって。何より、あたしが千空と恋人になったとして、あたしは戦闘のときどうすれば…」
そこで千空は立ち上がり、明里紗を抱きしめた。
「ほら、俺は明里紗より背が高いだろ。」
「3センチぐらいしか変わらないけどね。」
そうからかいながらも、口調は穏やかだった。
「でも、中に収まる。」
「…そうだね。」
「明里紗は女の子だ。空手は明里紗には敵わないけど、魔法を使えば明里紗のことだって守れる。」
「守られるのは嫌だよ。」
「わかってる。だからお互い助け合っていきたい。そして俺は明里紗の特別な人になりたい。明里紗、」
「うん?」
「もう一回言わせてくれ。これで断られたら諦める。俺達は仲間だ。何も恐れることなんてない。
俺は明里紗のことが好きだ。」
「…あたしも、千空のことが好きだよ。弟としてじゃなく。」

そこで音楽は止まり、アナウンスが流れた。
「告白タイムの時間でーす!皆さん10分後に花火があるのでそれまでに告白し終えてくださいねー!花火を誰と見るかは自由です!」
「時間、間違えたね。」
「明里紗のタイミングが悪いんだ。」
そう言って千空は明里紗から離れた。
「あれ、あたしのせいかい?」
そう言った二人は嬉しそうに笑った。




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© 浅海檸檬