第56話




「早速で悪いが、黎明の天秤のことをいろいろ教えてもらおうか。」

千空がそう言うと二人は目を丸くした後、納得にしたように頷いた。
しかし、出てきた言葉は意外なものだった。

「悪いけどそれはできないわ。」
「何で?もう黎明の天秤にはばれてるんだよ?」

華恋がそういうと璃音が首を横に振った。

「今の状態では拙者と姉上はただ黎明を出ただけだ。
本当の裏切りとは内部の情報を漏らすなどして不利益に繋げること。」
「慰音と璃音が抜けただけで大分戦力は削がれたと思うが?」

千空がそう言うと今度は慰音が首を横に振る。

「黎明の天秤がどれだけ大きいものか知らないでしょう?
これだけ言っておくわ。黎明の天秤は12星座で構成されている。
私達のコードネームはカストルとボルックスだったでしょう?」
「双子座の星だもんな。」

悠夜が納得したように言うと、まなが驚いた顔をした。

「栢山が知ってるなんて意外です…。」
「UFO観察のために星はほとんど完璧だぜ!」
「…。」

まながあきれたように黙った。

「必ずしも星の名から取ってるわけではないけどな。だから皆本名を知らない。
コードネームで呼び合って、お互いを干渉しないんだ。黎明のリーダーなんて顔さえ知らない。」
「凄い秘密裏なんだね…。」

錬太が感心したように言う。
その言葉に慰音が頷いた。

「そうなの。わたしたちが知ってることはそれだけ少ないし、それに…。」
「それに?」
「傍観者がいつ見てるか分からないからだ。」

璃音の口から傍観者と発せられ、明里紗は舌打ちした。

「やはり黎明にも行ってるんだな。」
「何を告げ口されるかわからないの。だから悪いけど私たちに言えるのはここまでってことにしておいて。」

慰音が良い終わると部屋は静かになった。

「あの、」

そう言ったのは華恋だった。

「双子座がいなくなったら、そこは空白になるの?」
「次期候補がいれば既に黎明は動いているだろう。」
「そっか…。」
「僕も一ついい?」

そう言ったのは錬太だ。

「言えることなら言うわ。」
「君達は追われることになるの?」

錬太のその一言で部屋は緊張に包まれた。

「今すぐにでも黎明が来るかもしれないってことか?」

千空が緊張した声で言う。

「いや、そうとは言ってないよ。でも情報を持っているからには…。」
「フルヴリアに危害は加えないはずだ。」

そう言ったのは璃音だった。
慰音が少し強張った顔をした。
”そこまで言っていいの?”とでも言うように。

「追って来るとしても、フルヴリアは巻き添えにならいないはずだ。安心しろ。」
「安心しろってそう言うことを言ってるんじゃないのよ!?」

少し張った声を出して華恋は言った。
慰音は目を丸くして驚いている。

「貴女たちは…慰音ちゃんと璃音ちゃんは、わたし達の仲間なの!
貴女達を見捨てたりなんかしない。絶対に…」

しゃがみ込んでしまった華恋にそっと手をのせ、慰音は言った。

「ありがとう、華恋ちゃん。」





「そんな数日で双子座決定なんて大丈夫なのか?会議も緊急すぎるし。」

アウトラリスとレグルスと双子座の揃っていない会議室で、アンタレスが不満そうに言った。

「大丈夫よ。カストルの方はね。」

髪を手で弄びながらスピカが言った。

「ボルックスは危ないのか?」
「危ないっていうか、ヘタレ?」

そう言ってスピカは笑った。

「また裏切る奴なら殺さなきゃいけないからね。」
「もうあいつらを殺したのか?」

そう問うたのはアルデバランだ。
あいつらとは慰音と璃音のことだ。

「まだだよ。でも殺る。裏切り者は許さないからね。」
「あら、面白そう。私も行っていいかしら。」

スピカがそう言ったところにアウトラリスが入って来た。

「早速だが、双子座を紹介する。入って来たまえ。」

アウトラリスに言われ、レグルスに連れてこられたのは真宮征治ただ一人。
彼の顔を見てイオタは顔をしかめた。

「彼が新しい双子座だ。」
「貴方はどっち?カストルかしら?それともボルックス?」

奇妙な質問をするスピカに知ってる者以外は動揺する。

「ガンマ、双子座は二人じゃないのか?」

アルデバランがそう問う。
二人が話す暇がなかったほど、急な会議だったのだ。

「それが…あの人、二重人格らしくて。」
「まじかよ!?」

そう声を張り上げたのはフォーマルハウトだ。

「双子座は二人だろ!?」
「理論的には二人だ。ガンマが言ったように二重人格だからな。」

そう言ったのはアウトラリス。
彼が言うからには絶対だ。

「ねえ、黙ってるってことはボルックスなの?」

少し苛立ったようにスピカは言った。

「俺はカストルだ。」
「そう、なら良いわ。ボルックスだったらどうしようかと思ったわ。」
「ボルックスだと俺の印象も悪くなりそうだからな。」

カストルはフッと笑った。

「ということで、今の彼はカストルだ。もう一人はボルックスで、彼も立派な黎明の一員だからよろしく頼むよ。
緊急な会議で悪かった。こういうことは早めに済ませておきたいからね。」
「で、元双子座の処理は?」

アンタレスが問うとアウトラリスが答える。

「彼女たちの始末は後にして欲しい。」
「何故ですか!?今すぐにでも行くべきです!」

アンタレスが焦ったように言うとアウトラリスは落ち着いた口調で言う。

「まだ彼女らに幸せな時間を与えたいとは思わないかね?…というのは冗談だ。
まだ彼女らは大した内部の情報を漏らしてないそうだ。」

アウトラリスがそういうとエーテが突如現れた。

「私が聞いたの。そう言ったら信じるでしょう?」
「というわけだ。」

アンタレスは不満げな顔をする。

「なに、そのうち始末はする。ただフルヴリアが近くにいるのが厄介なんだ。
彼らはまだ殺してはならないし、余計な戦力をさきたくないんだ。」

そこでアンタレスは納得したように頷いた。

「じゃあとりあえずカストルは話があるから来てくれるかな。あと、イオタ。」
「はい!」
「彼に話したいことがあるなら来ればいい。」

そう言ってアウトラリスは部屋を出た。
イオタは本心を突き付けられた様な気がして動揺した。

「俺に話があるのか?」

カストルに問われ、イオタは拳を握り締めた。

「…あるわ。」





「これでだいたいの説明は終わった。話があるようだから隣の部屋でするといい。」

アウトラリスがそう言うと、カストルはイオタに目線で隣の部屋に行くように促した。


「で、話って何だ?」

カストルが部屋の真ん中まで行くと振り返り問うた。

「あたしの本名知ってるでしょう?」
「ああ、上坂水穂だろ。」
「黎明の天秤ではお互いを干渉するのは皆避けてるの。それはわかるでしょ?」
「ああ。」
「お願いだから学校で話しかけるのはやめて。」
「真宮征治に言っておくよ。」

軽く流されたのに気付いた水穂はさらに念押しする。

「カストルも、よ!」
「俺はあまり学校は行かないからな。」
「でもいつ現れるか分からない、でしょ。」

カストルは水穂に顔を近づけて言った。

「そうだな、あんたをからかう為なら出てきてやってもいいかな。」

水穂はカストルの頬を平手打ちした。
部屋にパンッと音が響いた。
カストルは赤くなった頬を手で押さえた。

「お前、学校が好きなんだな。」
「そうよ、あたしはどっちも大切なの!だから邪魔しないで!」

カストルは水穂の言葉に驚いた表情を見せた。
そしてフッと笑い言った。

「せいぜい持つところまでごっこ遊びしてるんだな。」

扉が閉まる音がした後、静寂の中水穂一人が取り残された。




ランキング参加中。
よければクリックしてください⇒ ☆Novel Site Ranking☆


© 浅海檸檬